コレラワクチンの現況

(Vol.23 p 227-227)

従来、 日本も含めて広く全菌体死菌注射ワクチンが使われてきたが、 最近では効果、 安全性の両面から使われなくなる傾向にある。海外でのこの種のワクチンの防御効果については30〜50%程度で、 持続は3〜6カ月程度とされている。副反応については局所反応以外に発熱、 倦怠、 頭痛などがほとんどの例にみられる。

全菌体死菌−(リコンビナント)Bサブユニットワクチン WC-(r)BS:熱またはホルマリン処理したO1コレラ菌(数種の株を含む)とコレラ毒素Bサブユニット(無毒性)(CTB)とを組み合わせたものである。スウェーデンのSBL Vaccin社より、 DukoralあるいはColorvacの商品名で主にスカンジナビア諸国で発売されている。CTBとしては、 以前にはリコンビナントでないものが用いられていた。通常は7〜42日の間隔で2回投与を行うが、 10カ月後位に追加接種を行うこともある。副反応としては軽度の腹部不快感がありうるが、 一般に耐容性は良好である。リコンビナントでないCTBを含むワクチンでの防御効果は、 バングラデシュでの治験で85%が6カ月間、 50%が3年間と示されている。リコンビナントCTBでのワクチンでも、 ペルーで86%の効果が示されている。

このコレラワクチンで注目を浴びているのは、 CTBと毒素原性大腸菌(ETEC)易熱性毒素LTとの類似性から、 旅行者下痢症の多くを占めるETECに対する効果である。実際に、 短期間ではあるが50〜60%程度の効果が示されている。最近では、 コレラ菌の代わりにETEC自体を用い、 rBS、 数種類の定着因子抗原など組み合わせたETECワクチンが開発されている。

弱毒生ワクチン:リコンビナント技術により種々のものが開発されたが、 商品化されたのはCVD 103-HgRである。これは稲葉569B株由来であり、 有毒なコレラ毒素Aサブユニットを欠失させ、 さらにマーカーとして水銀耐性遺伝子を導入したものである。Swiss Serum and Vaccine Institute社よりOrocholあるいはMutacolなどの商品名で、 主にヨーロッパ諸国で発売されているが、 北米(カナダ)や南米などでも入手可能である。通常1回の経口投与を行う。副反応には軽度の悪心、 腹痛、 下痢などがありうるが、 概して軽度である。防御効果についてはボランティアにチャレンジを行い、 古典型コレラ菌で82〜100%、 エルトール型コレラ菌で62〜80%であったが、 効果は少なくとも6カ月間(あるいは2年間)持続するとされる。しかし、 インドネシアでの治験では効果が低かった。

これら2種類の経口ワクチンはいずれもO139コレラ菌には無効であるので、 その改善が図られている。

海外旅行者に対するコレラワクチンの適応は限られている。それは、 一般の海外旅行者でのコレラの罹患率が非常に低いこと、 仮に罹患しても補液により死亡が免れること、 ワクチン接種による安心感で飲水や摂食に無頓着になることなどが理由である。したがって現在のところワクチンの適応は、 高度の流行状態がある地域に出かけ、 高度の暴露が予想される場合に限られている。

国立感染症研究所感染症情報センター 木村幹男

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