Vibrio cholerae O141感染事例−山形県

(Vol.23 p 226-227)

1999(平成11)年10月12日、 県立A病院からコレラO1血清に凝集せず、 O139にわずかに凝集がみられるVibrio cholerae が検出されたので確認して欲しい旨の連絡があった。送付された菌株を検査したところ、 生化学性状はTSI:黄/黄、 ガス−、 硫化水素−、 LIM:リジン+、 インドール+、 運動性+、 食塩加ペプトン水0%+、 3%+、 8%−、 10%−、 オルニチン+、 VP−、 シモンズクエン酸+、 DNase+、 チトクロームオキシダーゼ+で、 V. cholerae と同定された。市販のコレラ菌免疫血清(デンカ生研)による凝集検査ではO1混合血清に凝集せず、 O139にわずかに凝集がみられた。また、 PCRによりコレラ毒素(CT)遺伝子保有株であることを確認した。国立感染症研究所で行った血清型別の結果、 当該株はO141であることが判明した。

患者は、 山形県B町在住41歳男性で、 1999年9月25日頃より水様性下痢を発症した(5〜10回/日)。それほど重度な症状でなかったため、 医療機関を受診していなかった。10月5日に風邪症状となった子供を県立A病院に受診させた際ついでに受診し、 下痢止め薬等の処方を受けた。同日検便を行い、 10月12日当該菌が検出された。その後、 10月13日上記医療機関を再度受診し、 抗菌薬が処方された。10月14日以降3回検便を行い当該菌の消失が確認された。

患者は1999年7月中旬、 同行者1名と商用で中国に渡航している。食品関係の仕事をしているため、 現地で多数の商品を試食(飲み込まず)している。食事はホテル以外で喫食、 生水は飲んでいないが、 氷入りの飲み物は飲んでいる。9月以降発症まで海外旅行等はしていない。患者以外の家族(6名)および中国渡航同行者に同一症状を呈したものはなかった。保健所で家族および中国渡航同行者の検便を実施したが、 V. cholerae は検出されなかった。

血清型O1、 O139でCT産生性V. cholerae の感染症は2類感染症のコレラとなる。山井らによるとnon-O1、 non-O139でCT産生性のものは非常に少なく、 1,898株を検査し、 CT産生株はわずか37株であった。しかし、 この37株の中に10株のO141菌株があり、 O141血清型におけるCT産生株の割合が10/16(約63%)と極めて高く、 CT産生性のO141菌群によるコレラ様下痢症の動向を注目する必要があると報告している。この10株のCT産生性O141菌株は米国の環境由来2株、 散発性下痢症由来8株(米国5株、 スペイン、 インド、 台湾各1株)である。今回の事例では、 発症の約2カ月前に中国に渡航しているが、 同行者から分離されなかったことや、 発症までの期間が長かったことなどから、 現地での感染かどうか確定できなかった。

参考文献
山井志朗、 沖津忠行、 島田俊雄、 勝部泰次、 Vibrio cholerae non-O1, non-O139の血清型分布、 その毒素産生性および新血清型の追加について、 感染症誌 71:1037-1045, 1997

山形県衛生研究所 大谷勝実 村山尚子 早坂晃一

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る