エコーウイルス13型および30型による無菌性髄膜炎の流行−広島県

(Vol.23 p 196-196)

広島県内では2002年4月下旬以降、 エコーウイルス13型(E13)およびエコーウイルス30型(E30)を原因とする無菌性髄膜炎患者の発生が増加している。

E13については、 昨年(2001年)9月に福島県で無菌性髄膜炎患者からの分離例が報告(IASR Vol.22、 No.12参照)されて以降、 福井県や大阪市などからも相次いで分離例が報告されている(IASR Vol.23、 No.5No.7参照)。広島県内においては、 本年4月24日に無菌性髄膜炎患者より採取された髄液からE13が初めて分離された。それ以降、 53名の患者(0歳〜13歳)から同型ウイルスが分離されており(7月23日現在、 表1)、 現在も無菌性髄膜炎患者の発生は増加傾向にある。

当所では、 エンテロウイルスの分離には、 BGM、 HEp-2、 RD-18S、 FLおよびVero細胞を常用しているが、 今回のE13はHEp-2とRD-18S細胞の両方で分離されている。それらの分離ウイルスは、 いずれも抗E13単味血清(デンカ生研製)の20単位で中和され、 同定は容易であった。また、 一部の分離株(ON02-2R株およびCR02-10F株)について、 CDCが開発したエンテロウイルスのVP1領域を増幅する汎エンテロプライマーセット(188-011)でRT-PCRを行い、 その増幅産物についてダイレクトシークエンシング法で塩基配列を決定した。得られた塩基配列についてGenBankに登録されている遺伝子配列情報との相同性をBLASTにより検索した結果、 ON02-2R株およびCR02-10F株は、 いずれも2001年に福島県で分離されたE13株(GenBank Accession No.AB086858)と99%のホモロジーが認められた。このことは、 昨年福島県で流行したE13株と同様のウイルスが広島県内でも流行していることを示唆していると考えられる。

広島県内住民のE13に対する免疫保有状況を知るために、 2001年10月に県内住民から採取された血清171検体について、 E13分離株(ON02-2R株)に対する中和抗体価を測定した(表2)。その結果、 40歳以上の年齢層では20〜65%が抗体を保有していたものの、 それ以下の年齢層での抗体保有率は低く、 特に14歳以下の年齢層では抗体を保有している者は認められなかった。このことは、 先に東方らが報告した福井県での成績(IASR Vol.23、 No.7参照)と一致している。今回の血清疫学調査結果および過去のウイルスサーベイランス結果から推察すると、 広島県においては、 少なくともここ最近の10年間以上はE13の流行がなく、 無菌性髄膜炎の好発年齢とされる乳幼児や学童は、 E13に対する抗体を保有していないと考えられるので、 今後も本型ウイルスを原因とする無菌性髄膜炎の流行拡大が懸念される。

一方、 E13に比べて数は少ないものの、 E30を原因とする無菌性髄膜炎患者の発生も認められている。広島県内ではこれまでに、 1989〜1991年および1998年に、 それぞれE30による無菌性髄膜炎の大きな流行を経験しているが、 1999年以後は、 E30は1株も分離されていなかった。ところが、 本年5月10日に無菌性髄膜炎患者から採取された髄液からE30が分離されて以降、 現在までに7名の患者から同型ウイルスが分離されており(表1)、 E13だけでなくE30の動向についても注意を払う必要があると考えている。なお、 E30の分離に関しては、 E13の場合と同様に、 HEp-2とRD-18S細胞の両方でウイルスが分離されており、 それらの分離株はEP95とエンテロ混合血清、 およびE30単味血清(いずれもデンカ生研製)の使用で容易に同定された。

広島県保健環境センター
高尾信一 島津幸枝 福田伸治 桑山 勝 宮崎佳都夫

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