サルモネラ複合感染による集団食中毒事例−千葉県
−4種類の血清型検出例について−

(Vol.23 p 178-179)

2001(平成13)年9月26日、 千葉県内の小児科医より受診者の幼稚園児からSalmonella Enteritidisが検出され、 他に複数の発症者からサルモネラが検出されているらしいとの通報があった。管轄の市原保健所が調査した結果、 千葉市内にある給食施設の弁当を喫食した市原市内の4つの幼稚園・託児施設のうち、 3つの幼稚園児の多数が発症したことが判った。市原保健所および千葉市保健所による発症者、 保菌者、 食品および環境等の検査・分析、 衛生研究所による分離菌の検査・分析の結果を報告する。

表1および図1は幼稚園別発症状況を示す。発症者のいる3幼稚園に共通する食品は当該施設の弁当のみであった。発症のピークは9月15、 16日であるが、 初発は14日であること、 9月13日と14日の休園児にも発症者がいること、 大人用の弁当を喫食した職員には発症者がいないことから、 9月12日に園児用に供された食品が原因の可能性が高い。12日のメニューは白飯、 豚ヒレカツ、 ごま枝豆、 サラダかまぼこ、 焼き海苔、 あんずであったが、 喫食者は幼児であり、 時間も経過していたため喫食調査から原因食品を推定することはできなかった。また、 検食および参考食品、 環境の検査、 従業員の検便等から食中毒菌は検出されなかった。

表2は、 有症者および保菌者検索で分離されたサルモネラの血清型別検出状況である。A幼稚園児からはS . Enteritidis、 S . Infantis、 S . MbandakaおよびS . Virchowが、 B幼稚園児からはS . EnteritidisとS . Infantisが分離された。S . Infantis、 S . MbandakaおよびS . VirchowはいずれもO7群であるため保健所の検査では同一菌と見なされ、 血清型別に供されなかった可能性がある。そこで後に、 各検体につき3〜10個のコロニーを再検査したところ、 一人の有症者からS . Enteritidis、 S . MbandakaおよびS . Virchowが分離された。本事例は保健所への通報が遅れたため、 菌検索の多くは発症後2週間以上経過している。したがって、 検出菌の血清型分布が感染時のそれと一致するかどうか疑問であるが、 少なくとも複数の血清型のサルモネラに汚染された食品が原因と考えられる。C幼稚園にはサルモネラ症状を呈した園児が3人いたが検体は提出されなかった。

図2および図3は、 各血清型の発症日別検出状況である。S . Enteritidisは9月15、 16日をピークに、 1週間以上にわたり検出された。S . MbandakaとS . VirchowはA幼稚園児からのみ分離されたが、 やはり1週間にわたり検出された。S . Infantisは食中毒発生の初期に、 両幼稚園児から分離された。各血清型のパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンは発症の時期や幼稚園間による差がないこと、 一人から3つの血清型が分離されたことから、 本事例は複数の血清型のサルモネラで汚染された1つの感染源から感染したと考えられる。全体に発症率が低く、 幼稚園間で0〜19%の差があること、 幼稚園内でもクラスによって0〜45%と差が大きいこと、 原因食の喫食日を9月12日とすると潜伏期が3日以上と長いこと、 発症がだらだらと長期にわたっていること等から原因食品の汚染菌数は非常に少なく、 また汚染の度合いは不均一であったかもしれない。その結果、 調理時間の差や調理してから喫食されるまでの輸送、 保存過程の差、 喫食中の時間差などによって発症率に大きな差が生じたと考えられる。

サルモネラ複合汚染による集団食中毒例は、 1995年米国で、 ビーフジャーキーからのS . Kentucky、 S . MontevideoおよびS . Typhimurium分離例がある。日本ではイカ菓子からのS . OranienburgおよびS . Chester分離例が記憶に新しい。

情報提供いただいた千葉市保健所、 千葉市環境保健研究所および市原保健所担当者各位に感謝いたします。

千葉県衛生研究所 依田清江 小岩井健司

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