インフルエンザ脳炎・脳症と診断され、 咽頭ぬぐい液からインフルエンザウイルスA/H1型が検出された小児の死亡例−奈良県

(Vol.23 p 174-175)

インフルエンザ脳炎・脳症と診断され、 死亡した小児の咽頭ぬぐい液からインフルエンザウイルスAソ連(A/H1)型を分離したのでその概要を報告する。

患児は本県生駒市に在住する3歳の男児。2002年1月16日夕方から高熱(39℃)が出現し、 近医を受診し投薬(抗菌薬、 鎮咳去痰剤、 メフェナム酸)を受けていたが、 18日0時頃から激しい嘔吐がみられ、 近くの休日夜間診療所を受診した。水分補給を指導され帰宅し様子を見ていたところ、 5時30分頃意識レベルが低下したため再び休日夜間診療所受診したが、 直ちに救急車にて近畿大学奈良病院へ搬送され入院した。入院時、 呼吸状態不良でJCS200、 除脳硬直の状態で対光反射なく、 瞳孔は1〜2mmに縮瞳していた。マスクにて酸素投与し呼吸状態はいったん改善した。また硬直はdiazepamにて軽快したが、 再び呼吸状態が悪化したため気管内挿管し呼吸管理開始となった。頭部単純CTで橋背側、 両側側頭葉、 小脳半球および両側視床に低吸収域がみられた。鼻汁インフルエンザ迅速キットではA(+)、 B(−)で、 インフルエンザ脳炎・脳症と診断し、 蘇生処置後18日16時当大学病院に搬送された。

到着時には自発呼吸はなく、 JCS300、 血圧126/60、 心拍数140/分。頭部単純CTでは大脳基底核、 中脳、 小脳の低吸収域が著明に拡大していた。血液検査では汎血球減少、 AST、 ALTおよびLDHの著明な上昇、 BUN、 Crの上昇がみられた。髄液所見では細胞数の増加はなかったが、 蛋白の著明な上昇がみられた。脳波はわずかに振幅が見られるのみであった。入院後治療としては抗ウイルス療法としてoseltamivirを投与し、 ガンマグロブリン療法、 ステロイドパルス療法、 アンチトロンビン大量療法およびシクロスポリン療法などを行ったが多臓器不全の進行を防げず、 2月2日17時13分に死亡した。

ウイルス分離は奈良県立医大入院時に採取された咽頭ぬぐい液をMDCK細胞に接種し、 4日目でCPEが観察された。分離株は直ちにフェレット感染抗血清を用いたHI試験をおこないA/New Caledonia/20/99血清でHAが抑制された(HI価1:160)ことから、 インフルエンザウイルスA/H1型であると同定した。

奈良県立医科大学小児科
志田泰明 三浦修治 福田和由 田中一郎 吉岡 章
近畿大学医学部奈良病院小児科
廣田正志 三崎泰志 吉林宗夫
奈良県保健環境研究センター
田口和子 足立 修 北堀吉映

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