<参考> 肝炎ウイルス検診について
  (「厚生 2002年5月」より抜粋)

(Vol.23 p 168-170)

厚生労働省大臣官房厚生科学課
 〃  老健局老人保健課
 〃  健康局結核感染症課
社会保険庁運営部医療保険課

厚生労働省では平成14年度からC型肝炎等緊急総合対策* を推進している。これは、 肝炎ウイルスに関する正しい知識を普及させるとともに、 住民が自身の肝炎ウイルス感染の状況を認識し、 必要に応じて保健指導等を受け、 医療機関に受診することにより、 肝炎による健康障害を回避し、 症状を軽減し、 進行を遅延させることを目的とするものである。

その一環として、 地域や職場における現行の健康診断等の仕組みを活用し、 老人保健事業、 政府管掌健康保険事業および保健所にて実施される特定感染症検査等事業において、 肝炎ウイルス検診を実施することとなった。

1.老人保健事業における肝炎ウイルス検診について

肝炎ウイルス検診の対象者:対象者は、 当該市町村の区域内に居住地を有する老人保健事業の健康診査の対象者のうち、 40歳、 45歳、 50歳、 55歳、 60歳、 65歳および70歳の人。これらの年齢以外の老人保健事業の健康診査の対象者のうち、 過去に肝機能異常を指摘されたことのある人、 広範な外科的処置を受けたことのある人、 または妊娠・分娩時に多量に出血したことのある人のうち定期的に肝機能検査を受けていない人、 および基本健康診査においてALT(GPT)値により要指導とされた人についても対象となる。なお、 過去に当該肝炎ウイルス検診を受けたことのある人については、 実施の対象としない。

肝炎ウイルス検診の実施:肝炎ウイルス検診の項目は、 問診、 C型肝炎ウイルス検査およびHBs 抗原検査。

 (1)問診
 (2)C型肝炎ウイルス検査:HCV抗体価を、 ウイルスの有無を判定するための高力価群、 中力価群、 低力価群に適切に分類できる測定系を用いる。

HCV核酸増幅検査は、 HCV抗体検査により中力価とされた検体に対して行い、 定性的な判断のできる検査方法を用いる。
 (3)HBs抗原検査:HBs抗原検査は凝集法等による定性的な判断のできる検査方法を用いる。

なお、 日常生活の場では、 C型肝炎ウイルスに感染することはほとんどない。したがって、 毎年繰り返してC型肝炎ウイルス検査を受けなくても、 一回受ければよい。

肝炎ウイルス検診の結果の判定:その結果の判定にあたっては、 検診に携わる医師によって行われる。

 (1)C型肝炎ウイルス検査:検査結果が高力価を示す場合は「現在、 C型肝炎ウイルスに感染している可能性が極めて高い」と判定される。また、 検査結果が低力価を示す場合、 および各検査法でスクリーニングレベル以下を示す場合(陰性の場合)は、 「現在、 C型肝炎ウイルスに感染していない可能性が極めて高い」と判定される。中力価とされた検体に対して行われる定性的な判断のできる核酸増幅検査において、 HCV-RNAの検出を行い、 検出された場合は「現在、 C型肝炎ウイルスに感染している可能性が極めて高い」と判定され、 検出されない場合は「現在、 C型肝炎ウイルスに感染していない可能性が極めて高い」と判定される。

 (2)HBs抗原検査:凝集法等を用いてHBs抗原の検出を行い、 陽性または陰性の別を判定する。

指導区分および結果の通知:C型肝炎ウイルス検査において、 「現在C型肝炎ウイルスに感染している可能性が極めて高い」と判定された人、 および、 HBs抗原検査において、 「陽性」と判定された人については、 医療機関への受診を勧奨する。

その他の留意事項:検診、 健康相談、 健康教育の実施にあたって、 実施主体である市町村は、 わかりやすいパンフレットやQ&Aを活用するなどして、 住民に十分な基礎知識の普及啓発を行う。

判定結果の通知にあたっては、 個人のプライバシーの保護に十分な注意を払い、 事後の保健指導や医療機関への受診勧奨にあたっては、 地域の医療機関などと十分に連携を図ることとされている。

2.政府管掌健康保険事業による肝炎ウイルス検査について

肝炎ウイルス検査の対象者:政府管掌健康保険生活習慣病予防健診の一般健診は、 40歳以上の被保険者および被扶養配偶者または35歳以上の40歳未満の被保険者で、 生活習慣改善指導を受けることを希望する者が受診できる健診である。平成14年度から実施される政府管掌健康保険の肝炎ウイルス検査は、 受診者の希望により一般健診に追加して行う検査である。対象者は一般健診を受診する者で、 (1)35歳以降5歳間隔の人、 (2)過去に広範な外科的処置を受けたことがある人、 または妊娠もしくは分娩の時に多量の出血をしたことのある人、 (3)一般健診の結果GPTの値が36以上であった人、 (4)過去に肝機能異常の指摘を受けたことがある人、 のいずれかに該当する人。過去に肝炎ウイルス検査を受けたことのある人は、 対象者から除外される。

肝炎ウイルス検査の実施:肝炎ウイルス検査の項目は、 老人保健事業と同様HCV抗体検査とHBs抗原検査。肝炎ウイルス検査については、 検査を受ける方のプライバシーに配慮し、 健診機関の窓口で直接申し込めることとした。

その他の留意事項:政府管掌健康保険の生活習慣病予防健診の一般健診を受診する際は、 受診者の方に費用の一部を負担して頂いているが、 肝炎ウイルス検査を希望された方については、 別に費用の一部を負担して頂くこととしている。HCV抗体検査の結果により、 HCV-RNA検査を受診する場合には、 全額保険者が負担するので受診する方の負担はない。

3.保健所等における肝炎ウイルス検査について

平成14年度から行われる保健所等でのB型およびC型ウイルス性肝炎の検査は、 それまでも行われていた性感染症検査とHIV抗体検査の体制と連携し、 利便性を高めることで、 これらの感染症の予防・治療対策の推進を図る目的で実施されることとなった。

ウイルス性肝炎検査事業の対象者:保健所等で行う性感染症検査事業(性器クラミジア感染症、 性器ヘルペスウイルス感染症、 尖形コンジローム、 梅毒および淋菌感染症の5疾患)並びにHIV 抗体検査およびエイズに関する相談事業により、 検査を一つ以上実施する方のうち、 同時にウイルス性肝炎(B型、 C型)検査を希望する40歳以上の方に対して、 HBs抗原検査およびHCV抗体等の検査が行われることとなった。

ウイルス性肝炎検査事業の実施:肝炎ウイルス検診の項目や結果の判定、 結果の通知などの事業内容は、 おおむね老人保健事業と同じようになっており、 また、 実施にあたっては検査等を匿名で行うなど、 個人のプライバシー等の人権の保護に十分配慮することを重視している。

「C型肝炎等緊急総合対策」

基本的な考え方

 1)肝炎による健康障害を回避することが可能であることおよび感染者に対する偏見や差別を防ぐという観点から正しい知識の普及が必要。

 2)C型肝炎ウイルス等感染者の数は極めて多く、 感染率等の要素を勘案して、 ある程度対象集団を絞り込んだ、 重点的、 迅速的な対応が必要。(肝炎対策に関する有識者会議報告書)

 1.国民に対する普及啓発相談指導の充実

 1)国民に対する普及啓発
  ・C型肝炎等に関する問答集やパンフレットの作成、 マスメディアを活用した広報の実施
  ・就職差別を未然に防ぐための公正な採用選考にかかる啓発・指導

 2)肝炎に関する保健指導従事者研修等の実施
 3)地域や職場等における相談機会の確保

 2.現行の健康診査体制を活用した肝炎ウイルス検査等の実施

 1)老人保健法に基づく基本健康診査における肝炎ウイルス検査等の実施
 2)政府管掌健康保険等の生活習慣病予防健診における肝炎ウイルス検査の実施
 3)保健所における肝炎ウイルス検査の実施

 3.治療方法等の研究開発および診療体制の整備

 1)肝臓病の新たな治療方法、 新薬等の研究開発
 2)治療指針の普及促進や有功性が明らかに優れた新薬の実用化の推進
 3)治療体制の整備
  ・地域がん診療拠点病院(仮称)の整備
  ・国立病院長崎医療センターを中心に診断・治療法の開発・研究を実施

 4.予防、 感染経路の遮断

 1)院内感染対策のための医療従事者講習会、 相談窓口事業の実施
 2)輸血における新しい検査法の標準化、 院内輸血指針の策定

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