C型肝炎の診断と治療
(Vol.23 p 167-168)

C型肝炎はフラビウイルス科に属するC型肝炎ウイルス(HCV)の感染により引き起こされる。HCVゲノムは約9,500塩基からなる一本鎖RNAで、 大きな一つの読みとり枠から3,010アミノ酸の前駆体蛋白が産生され、 その前駆体蛋白からウイルスと細胞由来の蛋白分解酵素によりウイルス固有の蛋白がつくられる。主に血液を介して感染するが、 感染経路については不明な点が多い。1989年HCV抗体測定系が開発され、 わが国では世界に先駆けて導入され、 非A非B型肝炎の大部分がC型肝炎であることを明らかにした。また、 この抗体測定系を用いた血液のスクリーニングにより輸血後肝炎は激減し、 それ以前は輸血症例の8.7%に輸血後肝炎が発生していたが、 1990〜91年には0.5%、 1992〜99年には0.1%以下となった。1999年からは新しい検査法(核酸増幅検査NAT)の導入により、 さらに安全性が向上している(本号3ページ参照)。

HCVの診断系には、 (1) HCVに感染した宿主が産生するHCV抗体を測定する抗体診断系、 (2)ウイルス粒子の構成蛋白であるコア抗原を測定する抗原診断系、 (3) HCV RNAを測定する核酸診断系がある。それぞれの診断系において検出感度の向上した新しい診断系が続続と開発、 実用化されており、 これらの検査を組み合わせることにより、 より正確な診断ができるようになった。しかし、 まだ不十分な点がいくつか残っている。

HCV抗体診断系はHCVのコア領域、 NS3-4領域およびNS5A領域の3領域の組換え蛋白を抗原として用いている。臨床的にはスクリーニング検査に広く用いられている。現行のHCV抗体検査は感染抗体の有無を検索することができ、 抗体陽性イコールHCV感染と考えられるが、 現感染か既往感染かを厳密には区別することができない。C型肝炎では中和抗体を測る簡便な系がないことが原因である。また、 急性感染か持続感染の急性増悪かを区別するのは臨床的に重要だが、 これを抗体検査のみで区別することができない。このことはA型、 B型あるいはE型肝炎などの場合と異なり、 C型肝炎においていまだIgM抗体検出系が確立していないことが原因である。これらの点が今後の課題であろう。現在は抗体診断系と核酸診断系を組み合わせることにより、 患者の感染の状態を判断する。一般に現感染者では抗体価は高く、 既往感染者では低い。HCV抗体が低力価の場合は既往感染のことが多く、 HCVキャリアーか否かの最終確認にHCV RNA定性法が用いられる。HCV RNAが陰性であれば、 既往感染の可能性が高い。また、 急性C型肝炎においてもHCV抗体の陽性化には感染後通常1〜3カ月を要するため(ウインドウ期)、 この時期にはHCV RNA定性検査が有用である。HCV RNAの定量法はウイルス量を評価し、 抗ウイルス療法効果判定や経過観察などに用いられている。

C型肝炎にインターフェロン(IFN)が効くことを示したのも日本の研究の成果である。C型慢性肝炎に対するIFN療法は、 わが国では1992年に認可された。IFN療法はC型慢性肝炎を治癒し得る有効な治療法であるが、 著効率は約30%である。IFN療法を行う前に、 ウイルスの遺伝子型とウイルス量を調べることで、 あらかじめ治療効果についてある程度予測できるようになった。IFN療法が奏功する可能性が高い患者には積極的にIFN療法を進めればよいが、 治療効果が期待できない患者に対しては新しい治療法の開発が望まれている。近年、 コンセンサスIFN、 リバビリンとIFNの併用療法、 ペグインターフェロン(Peg-IFN)が有効性が高いことが報告された。コンセンサスIFNは非天然型IFNαで、 従来のIFNαよりも抗ウイルス活性が高いことが示された。リバビリンはプリン骨格を持つ合成核酸アナログで、 RNAおよびDNAウイルスに対して抗ウイルス作用を有する。リバビリンとIFNの併用療法はIFN単独治療に比べ著効率が増大すると報告された。わが国でもこれらの治療法の大規模な治験が行われ、 2001年12月にコンセンサスIFNの使用、 およびIFN-リバビリン併用療法の保険診療が認可され、 さらに2002年2月から保険上のIFN投与期間の制限がなくなり、 長期投与も可能になった。HCV感染を防御し得る有効なワクチンはまだ開発されていないが、 いくつかのグループが研究開発に取り組んでおり、 今後の進展に期待される。精度の高い診断系で患者の状態をより詳細に把握し、 いくつかの治療法の中から患者にあった治療法を選択することが可能になってきており、 C型肝炎の診断と治療は新しい局面を迎えていると言えよう。

国立感染症研究所ウイルス第二部 勝二郁夫

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