中央オーストラリアで26年ぶりのMurray Valley脳炎ウイルスとKunjinウイルスによる患者の発生

(Vol.23 p 150-150)

Murray Valley脳炎(MVE)ウイルスとKunjin(KUN)ウイルスはオーストラリアにおける蚊媒介性のフラビウイルスであり、両ウイルスとも野鳥と蚊の間の感染サイクルにて生息しているものと思われる。ヒトに感染しても通常無症候性であるが、少ない確率で脳炎症状を引き起こし重症となる。

MVE脳炎の最近の流行は、1974年のオーストラリア東南部のMurray Valley地区で始まり、Northern Territoryの患者5名が含まれ、うち2名はオーストラリア中央に位置するAlice Springs地区であった。1975〜1999年までにNorthern Territoryではさらに13例のMVE患者が報告されているが、中央オーストラリアにおける患者報告はなかった。

KUNウイルスの疫学については不明な点が多いものの、MVE よりも広範に分布しているものと考えられている。オーストラリア北部一帯に分布し、時に東南部へも広がりを見せる。しかし、中央部における患者の発生報告はない。

MVEウイルスとKUNウイルスの活動性上昇がみられた場合に早期に警告するため、見張り用(sentinel)ニワトリのフラビウイルスに対する抗体検査が行われているが、2000年3、4月にNorthern Territory内のニワトリにseroconversionが確認され、州の保健部局から警報が出された。同時期にAlice Springs病院において、不明な神経疾患患者が複数報告され、最終的には中央オーストラリアにおいて5例(男4、女1)がMVEとKUNによる脳炎と診断された。患者は全員人里離れた地域に住むアボリジニーの小児(乳児2人を含む)と成人で、いずれも発熱、嘔吐、頭痛、項部硬直などの前駆症状を有していた。4例に明らかな神経学的症状が出現し、うち3例は意識レベルが低下するなど重症化した。患者5例中最終的に2例は回復したが、残る3例は四肢麻痺や認知障害などの後遺症が残った。検査の結果、3例がMVE、1例がKUNによる急性脳炎と確定したが、残る1例はどちらのウイルスによるものかを判別できなかった。26年ぶりに突如患者が発生したその前月には、隣接した州において異常な降雨とそれに伴なった河川の氾濫が起こり、その後周辺地域において媒介蚊数の増加やseroconversionが確認されていた。

2001年の初めに中央オーストラリア地域において、さらに2例のMVE脳炎、1例のKUN脳炎、1例のMVE/KUN判別不能な脳炎患者が発生した。これらの発生に関し、地域外からの感染拡大によるという証拠がなかったことから、この地域でendemicな状況が確立してしまっていることが示唆された。

(Australia CDI、26、No.1、39、2002)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る