野菜洗浄水の微生物汚染実態と野菜汚染病原菌増殖態度

(Vol.23 p 142-143)

わが国では、 カイワレ、 レタスサラダ、 おかかサラダ、 キャベツサラダなどの野菜類を含む食材によって腸管出血性大腸菌O157(以下、 O157)による食中毒事件が発生している。また、 欧米諸国でもレタス、 アルファルファ、 トマトなどの生野菜や、 メロン、 アップルジュースなど、 今まであまり問題にされていなかった農産物を原因食品としたO157やサルモネラによる食中毒事件が発生している。しかし、 その汚染実態や食中毒事件の感染経路などについては不明な点が多いことから、 これらを明らかにすることは重要である。

そこで、 野菜類を洗浄した後の水(以下、 洗浄水)の微生物汚染実態を調査するとともに、 野菜類を洗浄・細切後に流れ落ちる洗浄水に病原菌汚染があった場合を想定し、 洗浄水などにおける野菜汚染病原菌増殖態度について検討した。

 1.洗浄水の微生物汚染実態

学校、 病院、 民間の集団給食施設において採取したもやし、 にんじん、 大根、 キャベツ、 レタス、 リンゴ、 イチゴなど31種類 184検体の野菜、 果物の洗浄水について細菌数、 大腸菌に加え、 O157、 サルモネラ、 ウェルシュ菌およびリステリア菌の汚染実態を調査した。

その結果、 細菌数は<3×101 〜 9.8×107/mlの範囲で、 大部分は<102 〜105/mlの範囲であった。また、 大腸菌が7検体(もやし、 キャベツ、 ほうれん草など)、 サルモネラ(血清型:すべてSalmonella Infantis、 以下S .I)が3検体(大根、 ゴボウ、 ブロッコリー)、 ウェルシュ菌が6検体(ゴボウ、 キャベツ、 ほうれん草など)、 リステリア菌が5検体(キャベツ、 キュウリ、 ジャガイモなど)から検出されたが、 O157は全く検出されなかった。したがって、 野菜類は低率ではあるが、 病原菌汚染のあることが判明した。

 2.洗浄水などにおける野菜汚染病原菌増殖態度

試験には野菜汚染病原菌としてO157(埼玉県衛生研究所が野菜加工品から分離)およびS .I(東京都立衛生研究所が野菜から分離)を使用し、 トリプトソイブロスで数回継代培養した菌液を遠心後、 上清を捨てPBSに再浮遊させ、 MacFarland Turbidity Standard No.0.5(107cfu/ml)となるように調整後、 10倍段階希釈した菌液を洗浄水などに添加した。

供試した洗浄水などは、 レタス、 キュウリ、 ほうれん草、 キャベツおよび大根は各々7検体ずつの35検体、 ネギ、 カブ、 セロリ各々2検体ずつの6検体の計41検体を水道水で洗浄・細切後、 滅菌袋に細切した野菜100gと蒸留水100mlを入れて1分間軽く手揉みしたもの、 およびほうれん草のゆで汁(以下、 ゆで汁)、 ゆで汁におかかを加えたもの(以下、 ゆで汁おかか)の各々2検体ずつ4検体の合計45検体であった。洗浄水などを滅菌ビーカーに分注後、 これらに事前に調整希釈した菌液(O157およびS .I)を添加して洗浄水などの菌数を102 〜103cfu/mlとしたものと、 無添加のものを準備し、 これらを25、 30、 35℃の孵卵器内に保存、 2、 4、 6、 8時間後にそれぞれの一定量を分離培地(O157:CT-SMAC・クロモアガー O157、 S .I:XLD)に塗抹、 発育した典型的集落により菌数を算定し、 野菜汚染病原菌増殖態度を確認した。

その結果、 O157については洗浄水の25℃での菌数(103)は、 レタス、 キュウリ、 ほうれん草、 大根が2オーダーの増加、 キャベツ、 カブ、 セロリが1オーダーの増加、 ネギは1オーダーの減少を示した。30℃および35℃での菌数はねぎ以外の野菜で105 〜107オーダーおよび106〜107オーダーであり、 ほうれん草や大根の中には108オーダーに達したものもみられた。ゆで汁とゆで汁おかかの菌数(102)は、 25℃で104と105オーダー、 30℃で105と106オーダー、 35℃で107と106オーダーであり、 保存した温度と時間に伴って菌数は増加していた。また、 S .Iについては洗浄水の25℃での菌数(103)には大きな変化はみられなかった。しかし、 ネギ、 カブ、 セロリを除いて保存温度の上昇に伴い菌数の増加がみられ、 多いものはレタスの35℃・8時間保存で107オーダーまで増加していた。ゆで汁とゆで汁おかかでも25℃での菌数(102)に大きな変化はみられなかったが、 保存温度の上昇に伴い、 ゆで汁では多いもので107オーダーに達するものもみられ、 ゆで汁おかかでは菌数はやや増加していたが104オーダーに留まっていた。

以上の野菜洗浄水の微生物汚染状況と野菜汚染病原菌増殖態度の結果から、 野菜類は低率ではあるが病原菌汚染のあること、 ネギなど一部の洗浄水を除いて、 O157やS .Iは野菜洗浄水などにおいて、 保存した温度と時間に伴って菌数は増加していることが判明し、 野菜類を原因食品とする食中毒事件発生の可能性が考えられた。また、 ネギなど一部の洗浄水の菌数に大きな変化がみられなかったことは、 洗浄水のpHや野菜の持つ成分の影響と考えられた。

学校、 病院などの集団給食施設では大量の食事を調理するため野菜類の処理は事前に行う場合が多く、 処理された野菜類は水切りザルなどに入れられ、 作業台に放置されている場合が多い。作業台上に流れ落ちた洗浄水などにO157やサルモネラ汚染があった場合、 気温や放置時間によってはこれらの菌が増殖し、 他の食品を汚染することによる食中毒事件発生の可能性も考えられ、 これらの施設における野菜類の取り扱いには十分な注意が必要である。

なお、 本調査研究は、 厚生科学研究(生活安全総合研究事業)「食中毒原因究明方策に関する研究」の一環として実施した。

静岡県環境衛生科学研究所 増田高志 秋山眞人
東京都立衛生研究所    金子誠二
埼玉県衛生研究所     齋藤章暢 正木宏幸
新潟県食肉衛生検査センター 後藤公吉
東海大学短期大学部    仁科徳啓
国立医薬品食品衛生研究所 宮原美知子 小沼博隆


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