悪性梅毒

(Vol.23 p 91-92)

II期梅毒は、 バラ疹、 丘疹性梅毒、 膿疱性梅毒、 梅毒性乾癬、 扁平コンジローム、 梅毒性アンギーナ、 爪梅毒、 梅毒性脱毛症といった多彩な皮膚症状を呈するが、 稀に個々の皮疹が大きく、 深く潰瘍化(ゴム腫は潰瘍を伴うがIII期梅毒)することがある。「大きな皮疹」、 「皮膚潰瘍」、 「蛎殻様の痂皮を伴った結節」といった皮膚症状を特徴とするII期梅毒は、 悪性梅毒Lues maligna、 Malignant syphilisあるいはNoduloulcerative syphilis 、 Papulonodular syphilisなどと呼ばれ、 発熱、 るいそうといった全身症状を伴い、 時に死に至る稀な病型である。

疫学:歴史的には19世紀に悪性梅毒の症例報告がある。19世紀末のドイツの報告では梅毒患者8,961例中31例(0.3%)が悪性梅毒、 1930年代の報告では梅毒患者838例中1例(0.1%)が悪性梅毒とある。近年、 HIV感染者の悪性梅毒の報告が相次ぎ、 その関連が注目されている。1996年ドイツのAIDS研究グループは、 HIV感染者11,368例中115例(1.0%)が梅毒で、 うち、 11例(9.6%)を悪性梅毒と診断し、 HIV感染者における悪性梅毒の頻度は1940年代の調査との比較で60倍高頻度であったと報告している。1995年Donらの悪性梅毒の症例シリーズでは、 悪性梅毒6例中5例(83%)がHIV感染者と報告している。これらの報告は悪性梅毒とHIV感染の関連を示唆する。さらに、 先のドイツAIDS研究グループは、 悪性梅毒11例のCD4数平均値が307/μl と、 通常のII期梅毒患者44例のCD4数平均値470/μlよりも低かったことを報告しており、 悪性梅毒と免疫低下の関連を示唆し興味深い。

本邦においては、 1987年以降の医学中央雑誌で検索すると、 悪性梅毒あるいは結節性潰瘍性梅毒は5例()あり、 うち3例がHIV感染を伴っていた1-4)。

診断:悪性梅毒は、 発熱、 るいそうといった全身症状を伴う重症型のII期梅毒である。皮疹は、 潰瘍、 膿疱、 痂皮を伴った結節で、 通常より大きく、 顔面に好発し、 手掌や足底にはむしろ少ない(写真1写真2)。皮膚病理組織学的には、 通常のII期梅毒にみられるような形質細胞の浸潤を認める以外に、 結節性病変においては血管炎や類上皮細胞性肉芽腫を認め、 潰瘍性病変部では血管炎が高度である。暗視野法で病変部浸出液の梅毒トレポネーマが証明されないこともある。悪性梅毒患者の梅毒血清反応は一般に高値を示す。鑑別診断としては、 水痘、 膿瘡、 抗酸菌感染症、 真菌症、 肉芽腫症、 壊疽性膿皮症、 血管炎、 リンパ腫などが挙げられる。

治療:悪性梅毒は化学療法によく反応するとされている。近年の悪性梅毒例はHIV感染を合併していることが多いため、 HIV感染合併例については、 早期に神経梅毒を合併したり、 再発する可能性に注意しつつ治療し経過を観察しなければならない。

参考文献
1)石井明子他、 臨床皮膚科 47(7): 561-564, 1993
2)横井 清他、 日本性感染症学会誌 8(1): 155-157, 1997
3)山路雅巳他、 日本皮膚科学会雑誌 107(7): 910, 1997
4)増野賀子他、 西日本皮膚科 62(2): 210-213, 2000

東京慈恵会医科大学皮膚科学講座
小松崎 眞 本田まりこ 新村眞人

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