東京都における梅毒様疾患のサーベイランス

(Vol.23 p 89-91)

梅毒様疾患は1999年4月の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」施行にともなって、 4類全数届出対象疾患に分類され、 トリコモナス症とともに性感染症の定点報告対象疾患からは除かれた。しかし東京都ではその後もこれら2疾患を都単独の定点報告疾患として扱い、 全数届出と並行し、 継続してその動向の把握に努めている。

現在、 患者定点数は41施設であり、 そのうちの1施設が病原体定点を兼ねている。

 1.性感染症定点患者報告数にみる梅毒様疾患の動向

都内の性感染症患者定点から報告された定点当たり罹患者数の年計を表 1に示した。東京都で梅毒様疾患の定点観測が開始されたのは1993年の7月であるが、 年間の累計報告数を比較することが可能な1994年以降の調査結果を見ると、 梅毒様疾患報告数の最大値は男性が年間2.4人/定点、 女性は1.0人/定点であり、 調査対象6疾患中、 男性はトリコモナス症についで2番目に少なく、 また女性では最小の報告数が続いている(図1)。梅毒様疾患の報告数はきわめて少ないが、 その動向は男性および女性とも、 1998年にごく小さなピークが見られ、 その後は緩やかな減少傾向にある。

報告された罹患者の年齢分布を見ると、 男女ともに20代と30代の罹患者が占める割合が大きく、 また女性は男性に比較して20〜24歳年齢域の割合がやや高い。さらに、 女性では15〜19歳の未成年の報告率が高く、 若年期の性的活動において、 感染源への接触の機会がより多いことが推察される(表 2図1)。

 2.梅毒様疾患の定点報告と全数届出の両者に基づく動向の比較

1999年4月以降、 感染症法のもとで全数届出として報告された年齢階級別罹患者数を表3示した。1999年が9カ月間の累計値であることを考え合わせれば、 男女ともに報告数は漸減している。特に女性での減少が顕著である。

全数届出数は定点報告数を上回っているものの、 2001年を例にとると、 その比は男性が1:0.54で、 女性は1:0.85にとどまることから、 全数届出対象疾患としての梅毒の報告が女性では特に徹底されていない可能性がある。

熊本ら1)は2000年に全国の延べ8,444医療施設で受診した計30,984,611例の性感染症症例について調査した結果から、 梅毒の人口10万対罹患率を2.8と、 また男女比は1:0.64と推定している。この推定罹患率を用いて東京都の人口(約1,220万人)に基づく年間罹患者数を推定すると約342人となり、 全数届出による把握率は4割程度にとどまっていることになる。小島2)は感染症法の施行にともなって、 梅毒の保健所への届け出方法が煩雑化したことが報告数に影響を与えている可能性を指摘している。

全数届出における罹患者の年齢構成を、 先に述べた定点報告のそれと比較すると、 定点報告では男女ともに30代以下の罹患者が過半数を占めているのに対し(図2)、 40代以上の中高年齢者が過半数を占めており、 性感染症定点医療施設を受診する罹患者の年齢分布との相違を示している(図3)。

 3.結語

梅毒が4類全数届出対象疾患となり、 定点での把握対象から除かれた後も、 東京都では都単独事業として定点報告による動向調査を継続実施してきた。一定した定点から得られる梅毒様疾患患者報告は連続性のある推移を把握することを可能とする貴重な価値を持っている。

近年、 梅毒様疾患の患者報告数は定点報告および全数届出のいずれを見ても、 きわめて低い水準で推移しているが性器クラミジア感染症罹患者の増加など、 性感染症全体の動向には警戒が必要である。とりわけ若年齢層における活発な性的活動は、 梅毒も含めた性感染症の流行拡大の大きな要因となりうることから、 今後も十分な注意を払いつつ、 発生動向調査を進める必要がある。

参考文献
1)熊本悦明他、 日本性感染症学会誌;12,1, 32-67, 2001
2)小島弘敬、 平成12年東京都感染症発生動向調査報告書,72,2001

東京都立衛生研究所疫学情報室 荻野周三

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