旅館の飲料水が原因と推測された毒素原性大腸菌O169:H41による食中毒事例−長野県

(Vol.23 p 65-65)

毒素原性大腸菌(ETEC)O169:H41による食中毒が1991年以降、 大阪府、 鹿児島県、 埼玉県、 北九州市および福岡市等で多発している。2001年に長野県において、 当該菌による飲料水が原因と推測された食中毒事例が発生したのでその概要を報告する。

長野県茅野市内の旅館を林間学校として利用した東京都内の関係者から7月19日諏訪保健所へ食中毒様を呈する患者の発生がある旨、 連絡があった。調査の結果、 7月16日〜19日に同旅館に宿泊した東京都内の中学生・教職員など261名のうち212名および旅館従業員46名のうち7名、 合計219名が発症していると判明した。

患者の主な症状は水様性の下痢(91%)、 腹痛(79%)、 発熱(40%)、 嘔気・嘔吐(35%)および頭痛(32%)等であった。喫食調査によると、 提供された旅館の食事および昼食の弁当は従業員が喫食しておらず、 共通原因食品ではないと判断された。患者が共通して摂食していたのは旅館の飲料水および旅館で調製した冷茶であり、 これらが原因食品と推測された。

当該旅館の飲料水は、 湧水と上水道を混合し塩素滅菌後に高架水槽へポンプアップし全館に給水されていた。しかし、 飲料水の残留塩素測定記録はなく、 塩素滅菌装置が正常に作動していたかは不明であった。湧水の大腸菌群検査は陽性であったが、 大腸菌O169は検出されなかった。

食中毒原因菌の検査は検食、 ふきとり、 湧水、 飲料水、 氷、 冷茶、 従業員および患者の便等64検体について実施し、 このうち患者9名からの検体のみ大腸菌O169:H41が検出された。なお従業員(健康者6名および患者3名)の便からのSRSV検索をPCR法にて試みたが検出されなかった。分離した大腸菌O169:H41 8菌株について、 Verotoxin、 LTおよびSTの産生性を検査した結果、 6菌株がST単独産生株であった。さらに9菌株についてinvE 、 VT1、 VT2、 SThおよびSTp遺伝子の検出をPCR法にて試みた結果、 8菌株がSTp遺伝子を保有していた。また、 東京都の細菌検査でも患者(中学生、 教職員および添乗員)18名からST産生の大腸菌O169:H41が検出された。

以上の結果から、 本事例は飲料水が原因と推測されたETEC O169:H41(STp産生)による食中毒であった。しかし飲料水の大腸菌O169:H41による汚染源は不明であった。長野県では1984年以降に本事例以外で飲料水が原因とされた事例が10件確認され、 その多くは患者数100名以上の事例であった。このように飲料水に起因する食中毒は大規模な事例の場合が多いことから、 再発防止に営業者の認識の向上とその実践が求められる。

長野県衛生公害研究所 関 映子 村松紘一

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