The Topic of This Month Vol.23 No.2(No.264)

細菌性髄膜炎 2001年現在

(Vol.23 p 31-32)

細菌性髄膜炎は、 1999年4月の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」施行に伴い定点把握の4類感染症に分類された。約 500の基幹病院定点は、 臨床症状および髄液検査所見または病原体診断や血清学的診断による細菌性髄膜炎患者の性・年齢を週単位で報告している(原因となる病原体が判明した場合には、 病原体の名称も報告)。国内でみられる細菌性髄膜炎はほとんどが散発例である。ただし、 髄膜炎菌性髄膜炎は髄膜炎ベルトとよばれるアフリカ中央部などで流行がみられ(本月報Vol.22、 No.11外国情報参照)、 しかも発症した場合の致死率が高い。輸入例も含め、 初発患者を迅速に把握することが感染拡大防止上重要であるため、 全数把握の4類感染症に定められた。髄膜炎菌性髄膜炎を疑った医師は、 病原体診断で確認した患者を7日以内に届け出なければならない。本特集は細菌性髄膜炎について行われている国レベルのサーベイランス事業および研究レベルの調査の結果をまとめた。

感染症発生動向調査:1999年4月〜2001年12月に報告された細菌性髄膜炎患者数は 763例(1999年4〜12月235、 2000年256、 2001年272)で、 年齢は0歳が29%、 1〜4歳が29%を占め、 男456:女307といずれの年齢も男が多い(図1)。そのうち病原菌名が記載されていたものは約半数で、 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae )が143と最も多く、 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae )が90でこれに次いだ。以下、 B群レンサ球菌(Group B Streptococcus 、 以下GBS)22、 大腸菌(Escherichia coli )14で、 他は1桁台であった。

同期間に届けられた髄膜炎菌性髄膜炎患者数は33例(1999年4〜12月10、 2000年15、 2001年8)で、 年齢は0〜71歳まで幅広く、 0歳6例、 1〜14歳6例、 15〜19歳6例、 成人15例であり、 男28:女5と男が多い(図2)。

病原菌検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)を通じて協力医療機関から感染症情報センター(IDSC)に報告された個別情報の中で髄膜炎患者から分離された病原菌を集計すると、 1995〜2001年の計96例中、 H. influenzae S. pneumoniae が28例ずつであった(本号8ページ参照)。H. influenzae は4歳以下の乳幼児からの検出がほとんどであるのに対し、 S. pneumoniae は小児と30歳以上から検出された。この傾向は、 1990〜1994年の集計(本月報Vol.16、 No.4参照)と同様であった。

髄液から分離された病原菌:2000年4月より厚生労働省「院内感染対策サーベイランス事業」が発足した(http://idsc.nih.go.jp/index-j.htmlボタン:JANIS)。2000年10〜12月の集計では、 全国約500の協力医療機関(病床数200以上)の検査室で髄液から 356株の病原菌が分離され、 主要菌種はStaphylococcus aureus (17%)、 Staphylococcus epidermidis (15%)、 Coagulase-negative Staphylococus(CNS:10%)、 H. influenzae (11%)およびS. pneumoniae (7%)であった(図3)。

小児細菌性髄膜炎の全国調査:神谷らが1994〜1998年に3回行った調査結果では、 5歳以下の小児での細菌性髄膜炎病原菌の6〜7割はH. influenzae で、 次にS. pneumoniae であり、 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )は極めて少なかった。H. influenzae による髄膜炎は、 5歳以下人口10万当たり9〜10の罹患率で、 年間600例程度と推定されている(化学療法の領域Vol.16、 No.11、 75-81、 2000)。

砂川らが1997年7月〜2000年6月に行った調査結果でも、 細菌性髄膜炎病原菌はH. influenzae が最も多く、 S. pneumoniae が続き、 以下GBS、 E. coli であった(表1)。分離数の多い上位4菌種検出例の年齢分布をみると(図4)、 GBS検出例は主に4カ月以下の乳児、 E. coli 検出例は全例2カ月以下の乳児であった。H. influenzae 検出例は主に3カ月〜4歳に分布し、 特に1歳以下に多い結果であった。一方、 S. pneumoniae 検出例は1株を除いて2カ月〜10歳に分布しており、 H. influenzae に比べて5歳以上の患者が多くみられた(本号3ページ参照)。

健康者におけるN. meningitidis の保菌率:東京都において1998年4月〜1999年10月に9例の患者発生が報告されている(本月報Vol.21、 No.3参照)が、 これまでわが国における髄膜炎菌性髄膜炎の報告は極めて少ない。その背景を明らかにするため厚生労働省「髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び検出方法の研究」(神奈川県衛生研究所・山井志朗ら)が6地研の協力を得て2000年に行った調査では、 健康者(大学生など)のN. meningitidis 保菌率は0.3%(1,711人中5人)と非常に低かった。分離された菌はB群とY群で、 病原性が強いとされるA群やC群は分離されなかった(本号7ページ参照)。

髄膜炎病原菌に対するワクチン:海外ではH. influenzae S. pneumoniae およびN. meningitidis に対するワクチンの開発・導入による予防対策が進められている。米国ではb型H. influenzae (Hib)ワクチンが1988年に18カ月〜5歳の小児に導入され、 1990年には定期接種となり、 1989〜1995年に5歳以下の小児におけるHib感染症は95%減少した(本月報Vol.19、 No.10 & Vol.20、 No.1外国情報参照)。現在の標準スケジュールではHibワクチンは生後2、 4、 6カ月および12〜15カ月に接種されている(CDC, MMWR, Vol.51、 No.2, 2002参照)。カナダではこれまで2歳以上の小児に23価のS. pneumoniae ワクチンを接種していたが、 新たに開発された7価のS. pneumoniae ワクチンを2歳未満の小児に対して生後2、 4、 6カ月および12〜15カ月に接種することを勧告した(本号12ページ外国情報参照)。英国では1999年11月に1歳未満の乳児と15〜17歳を対象にC群N. meningitidis ワクチンを導入し、 2000年の秋までに18歳以下の全小児に、 さらに2002年には24歳以下に対象を拡大した(CDSC, CDR, Vol.10, No.15, 2000 & Vo.12, No.2, 2002参照)。また、 2000、 2001年には各国でメッカ巡礼者に関連したW-135群の流行があり(本月報Vol.21、 No.6Vol.22、 No.3 & No.6外国情報参照)、 英国では今年のメッカ巡礼者に対し4価(A、 C、 W-135、 Y群)のN. meningitides ワクチン接種を勧告している(CDSC, CDR, Vol.12, No.3, 2002)。

今後の課題:わが国における細菌性髄膜炎の主要な病原菌であるH. influenzae S. pneumoniae での耐性菌の増加が報告されており(本号4ページ6ページ参照)、 治療現場では迅速な病原体診断と適切な化学療法の選択が求められる。髄膜炎病原菌の菌種・型別および薬剤感受性の動向を監視する病原体サーベイランスを強化し、 薬剤耐性菌への対策および予防接種導入の検討をさらに推し進める必要がある。

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