病院で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−愛媛県

(Vol.23 p 15-15)

2001年7月13日、 松山市内のA病院の重度痴呆病棟に入院中の90歳の女性から腸管出血性大腸菌O157(以下O157と略す)が分離された旨、 同病院から松山市保健所に届出があった。同患者は7月10日に血便、 発熱、 腹痛の症状が出現していたため、 便培養検査が行われていた。7月14日、 同病院から初発患者と同じ病棟に入院中の84歳の男性に血便が見られているとの報告があり、 市保健所で検便を実施したところ、 16日にO157が分離された。

市保健所では7月17日〜23日にかけて、 同病院の入院患者 707名、 職員 454名、 出入業者等 218名を対象に検便を実施した。その結果、 11の病棟の入院患者25名と医療従事者1名からO157が分離された。一方、 7月1日〜9日までの給食および食材 250検体と厨房のふきとり20検体の培養検査ではO157は分離されなかった。O157の分離された入院患者は男性15名、 女性10名、 年齢層は40代4名、 50代7名、 60代5名、 70代6名、 80代1名、 90代2名であった。これらの患者のうち6名には下痢等の症状が認められたが、 17名の患者は無症状であった(2名は不明)。O157が分離された医療従事者は18歳の女性で、 腹痛が認められている。

衛生環境研究所での細菌検査の結果、 26名から分離された26株のうち25株はO157:H7でVT1とVT2の両毒素産生株であったが、 1株は非運動性のVT2のみを産生する菌株であった。さらに、 制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるDNA切断パターンでは、 に示すような4つのパターンに解析された。Aパターンを示した菌株は19株、 Bパターンを示した菌株は5株、 Cパターンを示した菌株は1株、 Dパターンを示した菌株は1株であった。このうちA、 B、 Cを示す25株は変異の程度が小さく、 ほぼ類似しているため、 同一の感染源に由来すると考えるが、 Dパターンの菌株は非運動性で他の菌株と明らかに異なることから、 その由来を異にするものと推察した。なお、 感染症研究所でのPFGEの解析結果ではAパターンとCパターンの20株はIIa, ND, I、 Bパターンの5株はIIa, IIa,I, same as 577、 Dパターンの1株はND, ND, NDとの報告を受けている。また、 12薬剤(ABPC、 CTX、 KM、 GM、 SM、 TC、 TMP、 CPFX、 FOM、 CP、 ST、 NA)に対する薬剤耐性試験ではすべての菌株とも感受性を示した。

今回の病院におけるO157の集団感染事例では、 O157が分離された26名の感染者のうち25名がほぼ同一のPFGEパターンを示したため、 同一の感染源によるものと推察されたが、 給食や病棟間を移動できるスタッフから菌が分離されなかったこと、 無症状の保菌者が多く感染時期を明らかにすることができなかったことなどの理由で、 その感染経路を特定することができなかった。なお、 PFGEパターン等の性状を異にした1株については、 患者が無症状保菌者で、 今回の集団感染事例の検査で偶発的に見つかったものと考える。

愛媛県立衛生環境研究所 田中 博 芝 美和 大瀬戸光明
松山市保健所
竹之内直人 中村清司 近藤弘一 玉乃井敏夫 西尾 功 上田哲郎
宮崎貞守  林 恵子 廣方ゆり

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