髄膜炎患者からのエコーウイルス13型の分離−福島県
(Vol.22 p 317-318)

2001年9月23日〜9月28日にかけて福島県内で発生した髄膜炎患者の髄液等からエコーウイルス13型(E13)を分離した。病原微生物検出情報によれば同ウイルスの分離報告例は1980年に1例あるが、 非常に稀で、 流行例は国内で初めてである。

患者は、 本県S市および隣接町村に居住する1歳〜9歳までの幼児および児童7名で、 発熱、 頭痛、 嘔吐を主訴に同地区の定点医療機関を受診し、 髄膜炎と診断された。また、 これより10日程前の9月10日に同医療機関を受診し、 熱性痙攣・咽頭炎と診断され外来で加療を受けていた1歳4カ月の乳幼児の直腸ぬぐい液からも同ウイルスを検出した。

本県においては、 通常の感染症発生動向調査事業とは別に、 FAXを使った当研究所独自のサーベイランス網を敷設している。今回E13が分離された髄膜炎の症例は、 上記のように9月23日〜28日にかけての発症例であるが、 同サーベイランスによって、 8月中旬〜9月中旬にかけての当該地域における散発的な髄膜炎の発生を察知しており、 9月21日付のサーベイランス週報で医療機関や保健所等に注意を促していた。

当該地域から9月期に検体が採取された症例は24症例(45検体)で、 髄膜炎11症例、 熱性痙攣3症例、 上・下気道炎8症例、 胃腸炎2症例であった。このうち、 髄膜炎7症例、 熱性痙攣1症例の咽頭ぬぐい液・直腸ぬぐい液・髄液等からE13が分離された。

上記の8症例は、 頭痛、 嘔気・嘔吐、 腹痛(2症例)を主訴に受診し、 上気道の炎症や発熱(37.6〜39.2℃)がみられた。うち7例については、 ケルニッヒ徴候、 項部硬直等の髄膜刺激症状が認められたため入院加療となった。有熱期間(37.5℃以上)は2〜4日、 頭痛は4〜6日ほど続いた。その後、 全症例とも治癒している。髄膜炎としては他のウイルスによるものに比し、 軽症例が多いようであった。

ウイルスの分離は、 RD-18S細胞、 HEp-2細胞、 Vero細胞,HMV-II細胞を用いて行ったが、 RD-18S細胞のみに強い細胞変性効果(CPE)が観察された。同細胞におけるウイルスの増殖は非常に良好で、 3代培養後のウイルス液は106〜108 TCID50/0.025mlと高い力価を示した。ウイルスの同定については、 当初EP95やコクサッキーA群に対する中和抗血清を用いた中和試験で同定を試みたが成功しなかった。このため、 CDCが開発した汎エンテロプライマーセットを用いてRT-PCRを行ったところ、 18X-011と040,012-011の両プライマーセット(VP1領域)で増幅産物が得られた。このPCR増幅産物の遺伝子解析を国立感染症研究所に依頼したところ、 E13の標準株であるDel Carmen株と約80%のホモロジーを有し、 近年に米国や欧州で分離されたウイルス株とは98〜99%のホモロジーを有するとの回答を得たことから、 同ウイルスに対する中和抗血清を用いて同定試験を行い、 E13と同定した。

E13の海外における流行状況については、 米国内での過去における同ウイルスの分離は非常に稀で、 1970〜2000年までの30年間でCDCに報告された分離例は65例であった。しかし、 本年(2001年)は8月までにテネシー州、 ミシシッピ州、 ルイジアナ州、 フロリダ州など13州にわたって76例の分離報告がなされており、 このうち50例は無菌性髄膜炎と診断された症例からのものであったと報告されている(CDC、 MMWR、 Vol.50、 No.36参照)。また、 ユーロサーベイランスによれば、 イングランドおよびウェールズにおいて2000年の30週までに67例(うち髄膜炎症例38例)の分離が報告されており、 ドイツでも2000年の5月〜9月にかけて、 これまで非常に稀であった同ウイルスによる髄膜炎症例の増加が報告されている。今回、 E13が分離された患者やその家族のこれらの地域への渡航歴については調査中であり、 感染経路などは現在のところ不明である。

なお、 10月期に当該地域で検体が採取された症例、 髄膜炎(疑い)15症例を含む33症例(75検体)のウイルスの分離同定を進めているが、 現在までに髄膜炎12症例、 上気道炎2症例、 胃腸炎3症例、 発疹症1症例の合計18症例からRD-18S細胞にCPEを示すウイルスが分離されており、 同定作業を急いでいる。

最後に、 御多忙中にもかかわらず貴重な症例の検体や患者情報を提供下さった公立相馬病院小児科の片寄雅彦先生ならびに、 遺伝子解析等を快く引き受けて下さり、 その後の御指導をも賜った国立感染症研究所ウイルス第二部の吉田 弘先生に御礼申し上げます。

福島県衛生研究所
菅野正彦 慶野昌明 平澤恭子 亘理智子 三川正秀 齋藤公男 加藤一夫

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