A型インフルエンザウイルス迅速検出キットとウイルス分離検査の結果が一致しなかったケース−名古屋市
(Vol.22 p 319-320)

2001年5月2日、 感染症発生動向調査の結果、 インフルエンザ定点(名古屋市内インフルエンザ定点数:70)の1医療機関からの報告数が突出して多い(17週分名古屋市88件のうちの68件)ことが判明した。名古屋市衛生研究所疫学情報部から当該医療機関へ問い合わせたところ、 「臨床的には軽症の症例も含まれているが、 迅速検出キット(A社製)で陽性と反応が出たケースについては報告している。」との回答があった。

その後、 当該医療機関からの報告数は、 5月9日(18週分)名古屋市46件中の37件、 5月16日(19週分)名古屋市45件中の37件、 5月23日(20週分)名古屋市51件中の43件と推移した。

感染症発生動向調査開始以降、 名古屋市での全インフルエンザ定点からの報告数は、 1999年17週9件、 18週11件、 19週0件、 20週1件であり、 2000年は、 17週〜20週までの期間に報告は無かった。

5月24日、 感染症発生動向調査の数字の経過をみて、 名古屋市健康福祉局健康部健康増進課および当該保健所と協議の結果、 地域流行の有無を確認するため、 検体を採取しウイルス分離を試みることを決定した。

5月26日〜5月31日の間に当該医療機関を受診した患者のうち、 インフルエンザを疑われた37名について、 主治医の協力を得て検体を採取し(鼻腔ぬぐい液)、 迅速検出キットを使用した。キットの判定結果は、 陽性30例、 疑陽性3例、 陰性4例であった。

対象となった患者37名の平均年齢は、 3歳6カ月(1歳〜7歳)であった。臨床症状が確認できた36名のうち、 「突然の発症」36名(100%)、 「38℃以上の発熱」10名(28%)、 「上気道炎」25名(69%)、 という臨床症状を呈していた。

検体は衛生研究所に搬入され、 培養細胞を用いてウイルス分離を試みた結果、 インフルエンザウイルス(MDCK細胞使用)はいずれの検体からも分離されなかった。ムンプスウイルス(MDCK細胞使用)およびアデノウイルス[AC細胞(羊水細胞の株化細胞)使用]各1例が迅速診断キット陽性例から分離された。今回はPCRによる検出は行っていない。

今回の事例では、 迅速診断キットによる判定とウイルス分離の結果に乖離が生じた原因は解明されなかった。しかし、 患者からの問診がとりにくい小児科領域においては、 迅速診断キットによる検査は確定診断の手段として用いられる可能性が高い。したがって、 インフルエンザ迅速診断キットのさらなる精度向上が求められると考えられた。また、 迅速診断キット陽性者数の増加がシーズンオフに報告された場合には、 ウイルス分離やPCRなどで確認することも場合によっては必要であると思われた。

名古屋市衛生研究所疫学情報部
瀬川英男 稲葉静代 米澤彰二 氏平高敏
名古屋市衛生研究所微生物部 今井昌雄
名古屋市衛生研究所所長   兒嶋昭徳
名古屋市健康福祉局健康部健康増進課 佐藤安寛
名古屋市熱田保健所 今泉佐智子 原田健一

IASR編集委員会註:上記キット(インフルエンザウイルスA型抗原のみ検出)は、 昨シーズンで生産中止となり、 今シーズンは市販されていない。

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