老人保健施設におけるウェルシュ菌の集団食中毒事例−富山県

(Vol.22 p 294-294)

2001年6月1日、 A町の老人保健施設から、 施設の入所者、 通所者、 職員の中に、 下痢等の症状を呈する患者が複数出ている旨の通報が所轄保健所にあった。調査の結果、 5月31日の昼食の摂食者からのみ患者が発生していた。摂食者192名のうち90名(入所者66名、 通所者12名、 職員9名、 調理員3名)が発症していた。患者の主な症状は下痢(99%)、 腹痛(41%)で、 平均潜伏時間15.5時間であった。

所轄保健所で摂食者107名(うち有症者88名)について検便を行ったところ、 直接培養で90名(内有症者78名)よりウェルシュ菌が検出された。また、 衛生研究所で有症者24名の便をクックドミート培地に投入し、 85℃10分加熱後、 一夜培養した培養液について、 PCR法(TAKARA)にてウェルシュ菌エンテロトキシン遺伝子の検査を行ったところ、 すべての検体から遺伝子が検出された。さらに、 この培養液をKM含有卵黄加CW寒天培地に塗抹し、 分離したウェルシュ菌について、 培地として変法DS培地、 検出法としてRPLA法(デンカ生研)にてエンテロトキシン産生性を検査したところ、 22検体で産生菌が証明できた。エンテロトキシン産生株は、 市販血清(デンカ生研)で型別不能であったため、 東京都立衛生研究所(門間千枝先生)に血清型別を依頼したところ、 送付した8菌株すべてTW54型であった。

5月31日の昼食の内容は、 ご飯、 ミートローフ(アスパラ、 オレンジ添え)、 白インゲン豆煮、 ドレッシング和え(春雨、 きゅうり等)、 すまし汁であった。このうち、 白インゲン豆煮は食品および原材料ともに検食が残っていなかったために検査ができなかった。その他の食品とその原材料、 ふきとり(13検体)からウェルシュ菌は検出されなかった。白インゲン豆煮は、 前日に大鍋(直径45cm、 深さ21cm)で、 豆4.5kgに砂糖と塩を加えて煮込み、 自然放冷50分後、 冷蔵保存を行い、 当日提供直前に10分間温められて提供されていた。再現試験では、 中心温度は冷蔵保存にもかかわらず、 煮込み終了から2時間後に50℃、 6時間半後に30℃、 12時間後20℃であった。当該調理工程から白インゲン豆煮が原因であったのではないかと推定されるが、 特定には至らなかった。

富山県衛生研究所 田中大祐 磯部順子 細呂木志保 清水美和子
中部保健所 広田昌幸 尾崎博子 小池美奈子
薬務食品課 堂高一彦

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