世界の麻疹の状況

(Vol.22 p 286-287)

麻疹コントロールの世界的な目標:1989年に世界保健総会(World Health Assembly)は麻疹の世界的なコントロール目標を設定し、 1990年の世界こどもサミット(World Summit for Children)においてワクチン接種目標の合意がなされた。実質的には1995年までに、 麻疹ワクチン導入以前と比較して罹患率の90%、 死亡率の95%を削減することを目標とした。麻疹ワクチン完遂率(Coverage of Measles Vaccination)としては2000年までに90%達成を目指すこととした。

麻疹排除(elimination)に向かう3つの段階:世界保健機関(WHO)では、 麻疹の排除に向かう段階を以下の3つのステップに区分している。1)麻疹患者の発生、 死亡の減少を目指す制圧(control)期、 2)発生を低く抑えつつ集団発生を防ぐ集団発生予防(outbreak prevention)期、 3)さらに進んで麻疹ウイルスの循環を防止する排除(elimination)期である。1998年現在、 日本は中国、 インド、 その他多くのアジア・アフリカ諸国など89カ国とともに1)の制圧期に含まれる。2)集団発生予防期がオセアニアなどの26カ国、 またアメリカ大陸、 ヨーロッパ、 南アフリカ、 中近東の一部は3)排除期段階としての対策が進んでおり、 113カ国が排除に向かって進みつつある、 とされる。

世界の麻疹の発生状況:WHOによると1997年に報告された世界の麻疹患者数は702,298人で、 1990年と比較して48%減少した。この間バングラデシュやネパールなど、 サーベイランスの強化と集団発生の増加に伴い、 455〜5,070%増の患者数が報告された地域もある(両国を含む南東アジア地域の推定罹患率は70%減少)。1997年の患者報告数が最も多かったアフリカ地域では人口10万人当たり47.5人であるのに対して、 最も少なかった南北アメリカでは10万人当たり6.5人であった。しかしこの年の51,915人という南北アメリカ地域からの報告は前年2,109人の約25倍であり、 ブラジル・サンパウロ州に端を発した麻疹の流行が大きく影響している。

麻疹患者数および死亡数の実際は、 WHOの推計によると、 1997年でそれぞれ3,098万人、 960,479人とされる。死亡例の99%は途上国であり、 1998年ではアフリカ地域と南東アジア地域で85%を占めると推定されている。

米国およびWHO西太平洋地域における麻疹および麻疹対策の現状:

1998年の米国における麻疹発生数は100例(前年より38例減)で、 26例が輸入例、 45例が輸入関連事例であった。輸入26例中日本人が2例で、 このうちアラスカの4歳児の例は、 32例の集団発生事例の原因となった。本例を含めて集団発生は6事例、 65例であった。米国ではMMRワクチンを生後12〜15カ月時と4〜6歳時に2回接種しており、 2歳児の麻疹ワクチン接種率は1998年に92.0%、 1999年に91.5%であった。1999年3月の専門家会議において、 米国ではもはや麻疹の流行はない、 と結論されている。

WHO西太平洋地域では、 依然として年間30万例以上の麻疹患者と20,000人の麻疹(およびその関連)死亡が報告されている。1996年に地域としての最初の麻疹ワクチン接種推進活動行動計画が策定され(2001年に改正)、 根絶(eradication)という目標に基づいた麻疹の罹患や死亡の減少を目指している。方法として2回接種法による麻疹ワクチン完遂率95%以上の達成、 積極的サーベイランス、 迅速な集団発生などへの対応、 地域の麻疹ラボラトリー・ネットワークの構築などを挙げている。2000年12月〜2001年2月の間に、 カンボジアでは13省において9カ月〜5歳の90%に麻疹ワクチンを接種した。ベトナムでも2000年12月のキャンペーンの結果、 代表的な7省において9カ月〜5歳の99%の麻疹ワクチン完遂率を達成した。中国においても精力的な麻疹ワクチン接種活動が行われ、 山東省と平南省において2000年の麻疹患者の発生を人口10万人当たり約1人にまで減少させた、 としている。

麻疹ワクチン接種:1990年以降、 1歳時点における麻疹ワクチンの定期予防接種率は約80%で推移した(1997年は79%)。WHO地域事務所別分類によると、 1997年に90%を超えて報告されたのはアメリカ地域と西太平洋地域の2つである(日本など制圧期に分類される国々が主である西太平洋地域が含まれている)。最も低率であったのはアフリカ地域で、 接種率の平均が57%であった。麻疹ワクチン接種率が50%を下回った国々は1998年は14カ国、 そのうち10カ国がアフリカ地域で、 ブルンジ、 カメルーン、 中央アフリカ共和国、 チャド、 コンゴ共和国、 エチオピア、 リベリア、 ナイジェリア、 トーゴ、 ウガンダであった。その他の地域としては、 ハイチ、 アフガニスタン、 ソマリア、 北朝鮮が挙げられている。

麻疹感染のリスクが高いとされる発展途上国の人口密集都市では、 補足的な麻疹ワクチン接種キャンペーンを行う地域が増加しており、 1997年には10カ国(アフリカ5カ国、 南アジア4、 西太平洋1)で実施された。WHOは麻疹根絶に当たって1)麻疹ワクチン通常接種率の向上、 2)補足的麻疹ワクチン接種の実施(catch-up, keep-up, and follow-up)、 3)麻疹サーベイランスの強化を強調している。

 参考文献
1) CDC, MMWR, 48, No.25, 541, 1999
2) Elizefrieda V. N. et al.: Statistical Notes, 2: 19,2000
 (http://196.36.153.56/doh/facts/stats-notes/2000/stat19-00.html)
3) WHO document: EPI1: COMBATING COMMUNICABLE DISEASES
4) CDC, MMWR, 48, No.34, 749, 1999
5) CDC, MMWR, 48, No.49, 1124-1130
6) WHO, WER, 74, No.50, 429, 1999
7) CDC, MMWR, 49, No.46, 1048-1059, 2000

国立感染症研究所感染症情報センター 砂川富正

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