麻疹予防接種意識調査(KAP study)結果と麻疹対策−堺市

(Vol.22 p 280-282)

2001(平成13)年に入り、 麻疹は全国的に例年よりもその報告数、 発生数ともに増加しているが、 大阪ではそれに先がけ、 1999(平成11)年12月〜2000(平成12)年10月まで約11カ月の間流行がみられた。堺市では麻疹ワクチン適応年齢の児を持つ保護者を対象とした麻疹予防接種意識調査(KAP study)を2001年6月〜8月にかけて実施した。麻疹予防接種に対するこのような調査はおそらくわが国においてはほとんど例がないものと思われる。以下に、 その解析結果およびそれに基づいた対策について言及する。

目的:本調査の目的としては3点があげられる。すなわち1)可能な限り広い階層の保護者に対する麻疹予防接種意識(KAP: Knowledge Attitude Practice)調査を実施し、 その実態を把握する、 2)調査結果に基づいた麻疹予防接種率向上のための対策を堺市および大阪府下で実施する、 3)後日再び麻疹予防接種に対してKAP調査を実施し、 実行された対策の評価を行う、 以上である。

対象・方法:堺市全域で実施されている1歳6カ月児健診、 3歳児健診受診者を対象とし、 2001年6月〜8月受診予定者に対して、 健診案内通知に添えて15項目に及ぶ質問項目を記載した麻疹予防接種意識調査表を送付した。あらかじめ保護者に調査票に記入してきてもらい、 健診実施会場(堺市の場合は7保健センター)において点検・回収した。

 結果

1.概略:総人口約80万人の堺市における2001年6月末現在の1歳児人口は7,945名、 3歳児人口は7,925名であった。調査期間は2001年6月〜8月の3カ月間であり、 1歳6カ月健診児1,239人、 3歳児健診児1,053人(総計2,292人)の調査を行った。調査児の平均月齢は1歳6カ月児健診受診児で18.1カ月、 3歳児健診受診児では42.1カ月であった。

2.麻疹罹患:1歳6カ月健診児の麻疹罹患者は46人(罹患率 3.7%)であり、 3歳児健診児では45人(罹患率 4.3%)であった。24カ月の月齢差があるにもかかわらず、 麻疹罹患者数や罹患率にそれ程差がみられないのは、 麻疹罹患者の中心が0〜1歳児であり、 調査対象となった1歳6カ月児はその乳児期が麻疹流行期間であったことと関連があると考えられる。3歳児健診児においては、 保育園通園児や母が若年である児の麻疹罹患率が高く、 すなわち児の生活形態や母の年齢と麻疹罹患との間には関連が認められた(表1表2)。

3.麻疹予防接種:今回の予防接種率は従来の接種率とは異なり、 単純に予防接種数を分子に、 調査者総数を分母にして算出したが、 それによると麻疹予防接種率は1歳6カ月児健診児では73%であり、 3歳児健診児では90%であった。予防接種に関する情報の入手先は広報・通知や母子手帳等を通じて行政機関より得ているとの回答が最も多かった。

1歳6ヵ月健診児、 3歳児健診児ともに、 保育園通園児は他の在宅児や幼稚園通園児(3歳児健診児のみ)よりも麻疹予防接種率は低く、 児の生活形態と予防接種率との間には関連が認められた(表3表4)。また3歳児健診対象児をみると、 麻疹予防接種の時期も異なっており、 幼稚園通園児、 在宅児、 保育園児の順に早期に接種されていた。

母の年齢と麻疹予防接種もやはり関連があり、 両調査ともに母が若年である程予防接種率は低かった(表5)。また児の生誕順も麻疹予防接種と関連しており、 早く生誕した児ほど早期に接種されていた。

児の麻疹予防接種実施の大半は保護者自身の判断によるものであり、 特に母が最も重要な役割を果たしていた。接種後の感想では両調査ともに「受けて良かった」との回答が70%を超えていたが、 「わからない」も20%以上認められた。「受けないほうが良かった」は両調査ともに5例ずつと僅かであり、 そのうちの8例は短期間の熱発や軽度の発疹等の生ワクチンである麻疹予防接種の副反応を副作用と誤って捉えていた。

麻疹予防接種未接種例においても、 保護者のほとんどは麻疹予防接種の必要性・有用性を認識しており、 「麻疹には罹患すべきであり予防接種は必要ない」等の否定的な見解は両調査を合わせても5例(0.2%)とごく僅かであった。

課題:海外からの報告によれば、 麻疹流行を阻止するためには、 麻疹予防接種率を1歳児の段階で95%にまで上昇させるべきであるといわれている。堺市においては3歳児健診児において麻疹予防接種率は90%を達成していたが、 1歳6カ月児健診児では70%台であり、 目標達成には開きがあった。この目標達成には児の麻疹予防接種決定に重要な役割を果たしている母親を中心とした保護者(特に25歳以下の母)に対しては効果的・効率的な働きかけを行う必要がある。また、 保護者に予防接種に関する情報を伝達する機会の多い医療従事者、 行政関係者は共同で麻疹予防接種に関する正確で統一された見解を持つことが必要である。

今後の対策:堺市としてとるべき対策を以下に示す。

 1)麻疹予防接種の適応、 接種時期、 他の予防接種との優先順位等に関する最新の知見に基づく正しい情報を効果的・効率的に広報していく。
 2)児の麻疹予防接種決定に関わる所へは広く広報していくべきではあるが、 特に25歳以下の母親や保育園関係者には周知徹底していくことが望ましい。
 3)保護者に直接接する保健婦や医師を中心とした行政関係者は、 麻疹および麻疹予防接種に関する正確で統一のとれた見解を持つ。
 4)医師会関係者、 医療機関とも協議を行い、 麻疹および麻疹予防接種に関する最新の知見に基づいた正確な情報を共有し、 共同で麻疹予防接種率の向上(目標は95%以上)を目指す。

最後に:本調査は大阪府で実行されつつある麻疹調査の一貫として堺市において実施されたものであるが、 この調査およびそれに基づいた対策は、 今後の乳幼児を中心とした麻疹流行を阻止することを念頭に置いたものである。そして予防接種により流行阻止や根絶が可能と考えられる疾患においてその接種を普及させ、 標的となる疾患の流行を確実に阻止することは、 昨今その重要性が指摘されている感染症危機管理における基本的作業であると考えられる。

堺市保健所 安井良則 今村淳子 今井龍也 岡澤昭子
堺市北保健センター 西牧謙吾
大阪府健康福祉部感染症・難病対策課 木田一裕 一居誠
国立感染症研究所感染症情報センター 砂川富正 大山卓昭 岡部信彦
大阪府立公衆衛生研究所 奥野良信

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