北海道麻疹ゼロ作戦

(Vol.22 p 279-280)

1.麻疹の流行

2000(平成12)年12月に、 北海道各地の小児科定点からの麻疹患者発生の報告が散見され始めた。2001(平成13)年になっても患者の発生は収まらず、 札幌市では定点(37小児科定点)からの報告が11週(3月中旬)から上昇に転じ、 14週(4月上旬)には1定点当たり1を超えた。この時点で札幌市保健福祉部は市民に対し注意を呼びかけるとともに、 幼児に対するワクチン接種を呼びかけた。また4月18日緊急に「麻疹流行対策専門会議」を開催した。この会議では現在の流行状況の報告、 予防接種対策特に5月に始まるポリオワクチン接種に関し、 麻疹ワクチンを優先して接種することを決めた。この内容につき翌4月19日保健福祉局が札幌市記者クラブで合同の記者会見を行い、 当日と翌日のテレビ、 新聞に大々的に取り上げられた。この結果4月、 5月の接種者は例年の約2倍に達した。

しかしながら流行は収まらず、 16週(4月中旬)には1定点当たり2を超えた。患者発症のピークは16週であったがその後もくすぶり続け、 1を下回ったのが24週(6月中旬)であり、 32週(8月上旬)に0.5を下回り、 38週(9月中旬)に流行は終焉した。この間報告された患者数は910例にのぼった。年齢分布は0歳児が最も多く190例(21%)、 次いで1歳児の175例(19%)、 3、 4歳児と漸減したが、 中高生の罹患もみられた。その主体はワクチンの未接種者であった。定点からの報告者数のカバー率が約5分の1とみられることから、 今年の札幌市での発生数は約4,500例と推定される。札幌市の流行時期に北海道各地からも同様の報告があり、 人口比から計算すると北海道内で約13,000例の発症があったものと推定される。通常自然麻疹5,000〜10,000に1例の割合で、 間質性肺炎または脳炎により死亡するものとされているが、 幸いにも合併症による死亡者の報告はない。

 2.麻疹ワクチン接種状況

麻疹罹患から逃れる最良の手段がワクチン接種にあることは議論の余地がない。高度弱毒生ウイルスワクチンが国内4社で生産発売されているが、 いずれもその発病阻止効果については実績が証明している。接種後7日で軽度の発熱、 軽度の発疹などの副反応の出現が被接種者の一部にみられるが、 自然麻疹の臨床経過と比すれば容認される範囲内である。

北海道には1999(平成11)年から感染症危機管理対策協議会流行調査専門委員会が設置されており、 感染症の流行調査、 予防のための情報提供および予防接種に関することが協議されてきた。2000年のこの委員会において沖縄県の麻疹の流行(2,000例以上の発症、 8例死亡)が話題となり、 北海道内の麻疹ワクチン接種率の調査が行われた。これによると1998(平成10)年実績で北海道全体で79.0%、 札幌市は86.0%、 1999年実績で北海道全体で87.5%とされた。ところが接種率の計算方法がまちまちであり、 接種数を分子とする点は共通しているが、 分母に前年度の出生数をあてている市町村が39(全市町村の18%、 人口比ではない)あった。前年度の出生数に未接種数を加えて分母にして計算するのが正しいが、 その把握が難しい。

厚生労働省予防接種研究班の磯村の調査結果によると、 1999年度で全国の麻疹ワクチンの接種率は81.0%である。麻疹の発症をゼロにするための接種率は95%であるという。すなわち14%アップをいかなる手段で達成するかが今後の課題となる。

 3.ワクチン接種率向上作戦

5月26日に開催された北海道小児科医会(南部春生会長)総会で、 北海道内から麻疹を無くしようとの決議が採択された。これを受けて「北海道麻疹ゼロ作戦」と銘うって、 流行の終焉を迎えた9月から具体的行動を開始した。その内容は次の2項目である。

 1)行政機関との共同歩調への要請:北海道小児科医会、 札幌市小児科医会は北海道保健福祉部、 札幌市保健福祉局に対して、 麻疹ワクチン接種率向上に向けて協力要請を行った。具体的には9カ月、 1歳半、 3歳健診時でのワクチン接種勧奨と接種歴問診を正確にとり、 未接種者には積極的に勧奨する。保健所勤務の医師、 保健婦に接種の必要性教育を徹底する。個別接種の推進と、 市町村の枠を超えて接種可能とする広域化を要請する、 などである。

 2)広報活動:日本小児科医会作成のポスター2000枚を譲り受け、 関係医療機関、 保健所、 保育所・幼稚園に配布した。同時にパンフレット20,000枚を作成して関係機関に配布した。10月4日に札幌市内で「はしかゼロをめざして−ワクチン接種をすすめよう−」と題して、 講演会を開催した。対象は札幌市および近郊の小児科医、 保健福祉関係者、 保育所・幼稚園関係者である。2名の講師によってはしかの恐ろしさとワクチン接種の大切さが強調された。

市町村広報誌による「ワクチン接種のすすめ」アピールを依頼した。マスコミへの協力依頼、 とくに非流行時の報道を依頼した。

 4.オホーツク麻疹撲滅作戦計画

オホーツク地方の1998(平成10)年度の麻疹ワクチン接種率73%を受けて、 麻疹撲滅作戦計画がたてられた。事業計画は1)実態把握、 2)一般住民への啓発普及活動、 麻疹撲滅キャンペーン、 3)ワクチン接種医療機関の広域化、 4)発生動向調査、 システム化、 5)保健・医療・教育関係者への研修、 6)報告書作成からなる。

実施の中心は北海道網走保健所(山口 亮所長)であり、 オホーツク地方3保健所が協力して2001年度から行う。同様の計画が釧路、 根室、 中標津保健所でも進んでいる。

市立札幌病院小児科 富樫武弘

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