麻疹ウイルス実験室継代株および臨床分離株に対する中和抗体価

(Vol.22 p 279-279)

近年、 わが国では遺伝子型D3あるいはD5に属する麻疹ウイルスの流行が確認されている。これらウイルス株のHおよびF遺伝子領域のアミノ酸解析結果から、 1950年代の流行ウイルス株との間で、 それぞれ16〜18カ所および2〜3カ所にアミノ酸置換が生じている。

一方、 麻疹ウイルスに対する高度感受性細胞株が樹立された結果、 臨床材料からのウイルス分離・増殖および臨床分離株に対する中和抗体測定が比較的容易となった。そこで現行のワクチンが近年の流行ウイルス株に対して有効性であることを確証するため、 各年代の代表的なウイルス株を用いて中和抗体を測定した。

予防接種前および接種6週後血清237対における検討では、 豊島株(1950年代)に対して<21および26.11〜27.11倍、 一の瀬株(1980年代)に対して<21および25.54〜26.54倍、 および9304株(1990年代)に対して<21および25.11〜26.25倍の価をそれぞれ示した。個体別に検討すると、 多くの例で豊島株に対する価に比べ、 一の瀬株および9304株に対する価は1/2〜1/8倍低い価を示した。

また、 麻疹単味および麻しんおたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチン接種後1〜20年以上経過した血清1,200例における検討では、 豊島株に対して25.0〜26.8倍および25.5〜26.5倍の価を示した。個体別に検討すると、 一の瀬株および9304株に対する価は、 豊島株に対する価と同等もしくは1/2〜1/4倍低い価を示した。中和抗体は長期間経過後も検出されるが、 抗体減衰と思われる低い価を示す例も散見され、 これらではHI抗体は検出限界以下を示した。中和抗体価とHI抗体価は相関関係を示した。抗体陰性例は中和抗体では3例(0.25%)、 HI抗体では43例(3.58%)であった。

なお、 これらのワクチン接種後の感染歴を調査したが、 secondary vaccine failureが疑われる発症例はなかった。

以上のことから、 現時点では、 ワクチン獲得抗体は近年の流行ウイルス株に対しても十分中和活性を有し、 感染防御がなされているものと考えるのが妥当であろう。

 文 献
1)野田雅博他:臨床とウイルス:28、 23-30、 2000
2)堺 春美他:予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究、 81-90、 2001

広島県保健環境センター 野田雅博
国立感染症研究所(現東京大学医科学研究所) 小船富美夫
東海大学 堺 春美

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