野外麻疹ウイルスの分離

(Vol.22 p 278-279)

 1.麻疹の流行と遺伝子型

麻疹ワクチンが定期接種(1978年)に導入されて以来、 麻疹の流行規模は減少している。しかし依然として毎年4月〜5月に患者数がピークになり、 また最近では年間を通して日本各地で小規模な流行が常に発生している。

一方、 麻疹は主に幼児が感染すると認識されてきた。しかし数年来成人が麻疹に感染する症例の報告が増えている。成人麻疹では肺炎や脳炎、 消化管出血などの合併症を伴い、 重症になりやすい。

1998年、 WHO“Standardization of the Nomenclature for Genetic Characteristics of Wild-type Measles Viruses”において、 野外麻疹ウイルス分離株の分子疫学的解析によってウイルスの命名法の統一が提案された。1998年にはN遺伝子のC末端 450塩基の違いに基づいて、 遺伝子型を15型に分類していた。しかし、 本年になってさらに改定され、 この分類が2001年には20の遺伝子型に分類されるようになった。

これらの提案に基づき、 2001年15週(4月9日〜4月15日)〜35週(8月27日〜9月2日)までに感染研にウイルス分離依頼のあった検体と、 各地方衛生研究所においてB95a細胞で分離した野外ウイルス株の遺伝子型別の解析を行った。ウイルス分離材料はEDTA採血した血液、 または咽頭ぬぐい液を用い、 B95a細胞に材料を接種した。

札幌(6株)、 秋田(1株)、 埼玉(1株)、 東京(10株)、 川崎(4株)、 横浜(1株)、 和歌山(4株)、 島根(7株)、 西宮(3株)、 宮崎(3株)、 長崎(4株)、 沖縄(7株)の合計51株の解析を行った。年齢分布は、 1歳以下(7名)、 2〜3歳(10名)、 4〜6歳(10名)、 7〜10歳(7名)、 11〜20歳(8名)、 21歳以上(9名)であった。

遺伝子型はN遺伝子のC末端( 1,230〜 1,685)の塩基配列から遺伝子型をCLUSTAL Wを用いて系統樹を作成した。に示すように、 遺伝子型は日本全国ほとんどの地域でD5型であった。一方、 沖縄ではすべての株がD3型であった。D3型は2000年には東京、 高知等でも分離されていた。また、 今回の解析では川崎(7月2日、 27週)と、 東京(7月21日、 29週)で、 遺伝子型H1が分離された。H1型はWHOの報告では中国や韓国の流行株である()。日本は麻疹ウイルスの輸出国とされているが、 日本にも近隣諸国から入って来ていると思われる。なお、 今後H1型が日本でどのように広がるかについては、 さらなる追跡が必要である。

 2.野外麻疹ウイルス分離株の命名法

 MVi/City.Country/Weeks-Year/Strain number[Genotype]と表示する。
 Mvi:ウイルス分離を組織培養によって得た場合
 (Mvs:臨床材料のRNA からウイルス遺伝子を検出した場合。)
 City:市名、 あるいは県名
 Country:国名(WHOでは3文字を推奨している。)
 Weeks:ウイルス分離のために材料を採取した週を1年を52週として表記する。
 Year:ウイルスを分離した西暦。
 Strain number:ウイルス分離の場所および週が同一の場合には整理番号を付ける。
 Genotype:遺伝子型
 特殊な臨床材料からウイルスを分離した場合にはGenotypeの後に記載する。
 (MIBE):measles inclusion body encephalitis
 (SSPE):subacute sclerosing panencephalitis

 参考文献
WHO, Weekly Epidemiological Record 76, No.32, 241-248, 2001
WHO, Weekly Epidemiological Record 76, No.33, 249-256, 2001

国立感染症研究所ウイルス製剤部 佐藤 威 竹内 薫 田代眞人
札幌市衛生研究所 林 康一
島根県保健環境科学研究所 飯塚節子
宮崎県衛生環境研究所 山本正悟
沖縄県衛生環境研究所 中村正治
東京女子医大 菊池 賢
川崎市立川崎病院 武内可尚

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