施設での疥癬の治療
(Vol.22 p 245-245)

疥癬の際、 用いられる薬剤の副作用を考えると、 疥癬の治療を行う医師には皮膚疾患に関する診断能力が一定レベル以上であることが求められる。疥癬の診断は疥癬という一つの疾患に精通しているだけでは難しい。他の一般的な皮膚疾患の診断能力も必要である。なぜなら単に疾患の鑑別を行うだけでなく、 疥癬と他の疾患との併発例があることも少なくないからである。従って、 施設等で疥癬が発症したなら皮膚科専門医を招聘すべきである。

施設等での治療の実際

欧米の文献をみても疥癬の治療法が確立されているわけではないので、 著者が実際に実施している方法を記してみたい。当初からその施設の人全員に外用療法を行えば早く治すという点では一番よいのであろうが、 まだ発疹がでている患者が数人の段階でそういうことをするのでは藪医者の謗りをまぬがれない。そこで流行のごく初期、 流行時、 角化型疥癬(ノルウェー疥癬)患者のいないケース、 およびいるケースなどの対応策を考えてみたい。

1)角化型疥癬患者がいないケース

a)疥癬患者が数人でそれほど増える傾向がない場合:その数人の患者をしっかり治療し、 他の患者を定期的に診察する。

b)疥癬患者は数人であるが、 増える傾向にある場合:患者と同部屋の人をすべて治療する。ナースや介護者で疑わしい人も治療する。

c)疥癬患者が比較的多く、 各部屋に散発している場合:そのフロアの入所者全員とさらに直接接触する可能性のある職員全員を治療する。

2)角化型疥癬患者がいるケース

a)角化型疥癬患者をベッドごと個室に移し徹底した治療を行うと同時に、 患者の居る部屋と居た部屋に殺虫剤を散布する。また、 角化型疥癬患者と同部屋であった患者はすべて治療し、 担当のナース、 介護者も治療する。

b)その他の普通の疥癬患者は同一の部屋に集めて同時に治療する。発症していない患者についてはもとの部屋からベッドを動かさず、 発疹が出現したら疥癬かどうかを診断して治療するかどうかを決める。

c)経過を追い、 3カ月以上新しい疥癬患者が出現し続けるようならそのフロア全員を治療する。

施設等で現実に使用されている薬剤について

各施設でどういう薬剤が使用されているのか、 それを調べた統計や論文は稀有である。しかし、 著者の推察ではγ-BHC(リンデン)、 安息香酸ベンジル、 イオウ剤の3つが多いと思われる。クロタミトンはもちろん高頻度に用いられているであろうが、 おそらくは根治療法としてではなく対症療法として用いられていると考えられる。ペルメトリン、 イベルメクチンは日本では使用されている例はないか、 あっても極めて少ない。しかし、 今後使用可能になるよう行政上の配慮が望まれる重要な薬剤である。現実に本邦で使われているγ-BHC、 安息香酸ベンジルでさえ保険適用になっていないばかりか、 その薬剤の詳細で正確な情報が診療の現場に届いているとは思えない。それでも皮膚科専門医の指示のもとに治療するのであれば一定レベル以上の治療が行われていると考えてよいが、 そうでない場合も多々あるのが現実である。また、 経営のことを考えて故意に皮膚科医を招聘しない施設の経営者もいると聞いている。これらに対する対策の一つは、 γ-BHC、 安息香酸ベンジルはもちろんペルメトリンやイベルメクチン等についても早急に保険薬として認可した上で副作用や使用法等の正しい情報を流し、 皮膚科医の監督のもとに使用するよう指導すべきであろう。

 参考文献
1)林 正幸他:寝たきり高齢者の皮膚疾患, 67-89、 メジカルセンス, 東京, 2000
2)林 正幸:皮膚疾患と生活指導−疥癬・シラミ−、 皮膚病診療, 20: 469-475, 1998

林皮膚科クリニック(厚木市) 林 正幸

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