弱毒株(Kawasaki、 Shimokoshi)によるつつが虫病−山形県
(Vol.22 p 215-216)

東北地方でのつつが虫病患者発生は4月〜6月にかけての初夏にピークがあるが、 東北(北陸)地方を除く地域では10〜12月の晩秋、 初冬に発生のピークがあり、 発生時期に相違がみられる。また、 全国の患者発生届け出数の半数以上を占める九州地方では、 抗体価から推定される感染病原体(Orientia tsutsugamushi )の血清型はKawasaki、 Kurokiが9割を占めると報告されている。最近3年間の山形県の成績では、 感染が推定される血清型としてKarp 23例(72%)、 Gilliam 4例(13%)であった。東北全体のこの種のデータはあきらかでないが、 山形県のそれに近いものと思われる。

医療機関からの依頼により、 衛生研究所ではつつが虫病の病原学的診断を、 免疫蛍光法(IF)による抗体検査を中心に、 補助的にPCRによる抗原検出を行っている。抗体の測定は、 抗原としてKato、 Karp、 Gilliamの標準3血清型をこれまで用いてきた。1999(平成11)年および2001(平成13)年に各1例、 標準の3血清型の抗原で感染病原体の血清型が推定できない症例が認められた。

症例1:患者はH町在住40歳代の女性で、 1999年10月12日に発病。37.7℃の発熱、 背中に刺し口、 全身の発疹があり、 つつが虫病の主要3徴候が認められた。患者は10月6日に町内の山林でキノコ採取を行っており、 そこでツツガムシの刺咬を受けたものと思われる。23、 48病日の回復期の抗体価を標準3血清型で測定したが、 Gilliam のIgMのみ320倍に上昇、 IgGの上昇はみられなかった。抗体の反応性に疑問をもち、 国立感染症研究所に精査を依頼した。その結果KawasakiのIgM 1,280倍、 IgG 320倍ということでKawasaki株感染によるつつが虫病が強く示唆された。

症例2:患者はM市在住60歳代の女性で、 2001年5月6日に発病。37.6℃の発熱、 右胸部に刺し口、 体幹部の発疹があり、 つつが虫病の主要3徴候が認められた。患者は5月2日頃に市内の山林で山菜採取を行っており、 そこでツツガムシの刺咬を受けたものと思われる。11病日の回復期の抗体価を標準3血清型で測定したが、 KatoのIgMのみ320倍に上昇、 IgGの上昇はみられなかった。抗体の反応性に疑問をもち、 弱毒株であるKawasaki、 Kuroki、 Shimokoshiを抗原としてIFにより抗体を測定した。その結果Shimokoshiに対するIgM 320倍、 IgG 160倍であった。同検体を新潟薬科大学に精査を依頼し、 Shimokoshi株感染によるつつが虫病が強く示唆された。

主な臨床検査成績:体温は症例1が37.7℃、 症例2が37.6℃と両症例とも軽度の発熱であった。白血球数は症例1が4,670/μL、 症例2が3,200/μLであった。GOTは症例1が69IU/L、 症例2が41IU/Lであり、 GPTは症例1が110IU/L、 症例2が25IU/Lであった。当所でこれまで経験したつつが虫病に比べ発熱の程度やGOT、 GPTの上昇の程度が低いようであった。なお、 両症例とも発病初期の血液から病原体遺伝子の検出を試みたが、 検出することはできなかった。

まとめ:血清抗体の反応性からKawasaki、 Shimokoshiの感染によると推定されるつつが虫病患者が山形県で確認された。症状は、 従来のつつが虫病患者に比べ比較的軽度であった。Kawasaki、 Kurokiはタテツツガムシが媒介すると言われているが、 タテツツガムシの生息は本県では近年確認されていない。症例1の発病が10月であることは関東や九州地方の発生状況と一致するが、 どのようなツツガムシが介在していたのか、 今後検討する必要がある。また、 Shimokoshiは1980年5月に新潟県で発病した患者で確認されたのが最初であるが、 症例2も同様に5月の発病であった。また、 媒介ツツガムシがどのような種類であるかは現在わかっておらず、 今後の調査課題である。

これまで、 東北地方では標準3株を抗原とした検査で間に合うと考えられてきたが、 症状からつつが虫病が疑われ、 標準3株に対する反応性がおかしいと思われるものについては弱毒株に対する検査も行っていく必要がある。

最後に、 新潟薬科大学・多村先生、 浦上先生、 国立感染症研究所・小川先生の御指導に深謝いたします。

山形県衛生研究所
大谷勝実 村山尚子 早坂晃一
山形県鶴岡協立病院 真家興隆
山形県村山市羽根田医院 羽根田やえ子

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