2000年度つつが虫病発生状況−鹿児島県
(Vol.22 p 214-215)

2000(平成12)年の鹿児島県のつつが虫病患者は、 全国の届出数794名の17%を占める全国最多の134名であった。これは1999年より47名の増加で、 1997(平成9)年から減少傾向にあったが、 急激に増加に転じ過去10年間で2番目に多い届出数であった。そこで、 当鹿児島県環境保健センター(以下当センター)にて依頼検査として実施した2000年度(2000年3月〜2001年4月)の血清学的検査結果と検査依頼書(患者調査票)からつつが虫病発生状況および問題点を検討したので報告する。

2000年度当センターでは、 県内77の医療機関より対血清61名、 単血清146名の計268検体(1998年度201検体、 1999年度208検体を実施)を間接蛍光抗体法(IF)にて、 つつが虫病リケッチア3標準株(Kato、 Karp、 Gilliam)と近年報告が増えている2株(Kawasaki、 Kuroki)、 日本紅斑熱リケッチアYH株を抗原とし、 各株に対する血清抗体価の測定を実施した。その結果、 血清学的診断で陽性と判定したつつが虫病112名(54%)、 日本紅斑熱5名(2.4%)、 陰性13名(6.3%)、 判定保留77名(37%)で、 つつが虫病陽性の単血清のみでの判定は64名(陽性の57%)であった。また、 112名のうち53名(47%)がKawasaki株に、 Gilliam株13名(12%)、 Karp株12名(11%)、 Kato株11名(9.8%)、 Kuroki株6名(5.4%)で 有意な抗体価の上昇を認め、 17名(15%)が最高抗体価株を特定できず、 内訳はKawasaki株、 Kuroki株の2株と標準株いずれかが同一抗体価であったので、 実際はKawasaki、 Kuroki両株の占める割合が増加すると推測できる。現在調査研究目的で、 県内医療機関の協力により、 感染初期患者血液(EDTA加血)の分与を受け、 PCRによる感染株の特定を検討している。

陽性患者の感染地域は、 大隅地区が全体の3割を占め、 伊佐・姶良地区2割、 川・北薩地区1割、 南薩地区1割と続き、 県都である鹿児島市からも2割の届け出があったが、 熊毛・奄美地区からは発生の届け出も検査依頼もなかった。

陽性患者の平均年齢は64.6歳で、 60代以上が約6割を占め、 うち70代が最も多く、 50代、 40代と続き、 男女比6:5であった。職業別では農業・林業従事者に多く、 推定感染場所の山地・農地が全体の約8割を占めていたが、 自宅の庭で1割、 行楽・山菜取り1割など身近な所での感染の機会も少なくない。

臨床所見からみると陽性患者の78%に刺し口が有り、 刺し口部位は、 両足37%、 腹部28%、 胸部22%と続く。発熱は95%とほとんどに認められ、 最高体温の平均は38.8℃で、 有熱期間は7日(18%)が多く、 5日、 4日と続く。発疹は87%とほとんどの患者に有り、 発疹部位として約7割が全身に認め、 背部・腹部が1割であった。リンパ節腫脹は約半数に有り、 その他症状として、 全身倦怠・頭痛で全体の83%を占めた。

血液学的検査所見として、 陽性患者白血球数の平均値は 6,563/μlで,最高18,700/μl、 最低 1,900/μlで全体的に幅があったが、 CRP上昇はほとんどの患者(94%)に認められた。

問題点としては、 当センターへの依頼検査が患者発症時期の11〜12月に集中し、 毎日約10検体以上をIFで検査報告しているが、 単血清のみの依頼が多く、 前述のとおり約4割が判定保留のため、 急性期血液でのPCRによる早期検査診断報告が強く望まれる。しかし、 DNA抽出の煩雑さと検体処理数に限界があるため、 どうしてもIFに頼らざるを得ない。今後のELISA、 ラテックス法など新しい簡易キットの開発に期待したい。また、 1999年4月の感染症法施行後、 医療機関からの患者発生届け出の際、 報告の基準に「臨床診断で当該疾患が疑われ、 かつ病原体診断や血清学的診断がなされたもの」という一節から、 検査結果を待って届け出がされている状況である。このため、 他の検査センター等に検査を依頼されるが、 これらの施設ではCF(標準3株のみを使用)による検査のため、 当県に優勢とされるKawasaki株、 Kuroki株が感染株の場合陰性と報告されることがあり、 当センターに後日再検査依頼があり、 陽性を確認している検体も少なくない。このことから、 発病年月日から患者発生届け出日まで、 かなりの日数が経過していることも多く、 さらに検討すべき問題点と思われる。

つつが虫病患者に対しては、 早期診断、 早期治療が不可欠であるため、 今後これらのことをふまえ、 医療機関、 検査機関、 行政機関が一体になってつつが虫病対策に取り組む必要がある。

鹿児島県環境保健センター
本田俊郎 吉國謙一郎 上野伸広 新川奈緒美 有馬忠行 湯又義勝
鹿児島県伊集院保健所 永田告治

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