ウチムラサキ貝が原因で夏季に発生したノーウォーク様ウイルスによる食中毒事例−鹿児島県
(Vol.22 p 222-223)

2001年7月中旬に、 鹿児島市から南に約500km離れた徳之島で、 ノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like viruses;NLV)による食中毒が発生した。この時期発生する食中毒でNLVが原因となる事例は稀で、 さらにウチムラサキ貝(俗称オオアサリ)が原因食品と推定されたので、 その概要と検査結果について報告する。

発生概要および疫学調査:7月19日、 大島郡徳之島町内の病院から、 下痢、 腹痛等の食中毒様症状を呈した患者数名が来院し、 治療を行っている旨の連絡が徳之島保健所にあった。保健所の調査で、 患者はすべて同一事業所の職員で7月17日19時頃に島内のホテルで喫食をともにした31名のうち、 23名(74%)が発症し、 そのうちの16名が点滴等の加療を受けた。

有症者は27歳〜57歳の男性15名と、 25歳〜52歳の女性8名の計23名で、 発症は7月18日18時30分から始まり、 19日がピークで7月20日深夜まで続いた。平均潜伏時間は37時間であった。発症した23名の主な臨床症状は、 下痢が20名(87%)と最も多く、 次いで腹痛が13名(57%)、 嘔気・発熱が45%程度で、 嘔吐は26%に見られた。

病原検索:当初は、 夏季の食中毒ということで、 施設ふきとり、 使用水、 食材、 便について病原細菌の検索を行ったが、 食中毒起因菌は検出されなかった。

さらに、 喫食者全員が全メニューの料理を食べていたので、 喫食調査で原因食品の推定はできなかった。メニューの中に二枚貝を調理した「貝マヨネーズ焼き」が含まれていたことから、 NLVを疑い、 有症者6名から糞便を採取し、 感染研から分与されたSRSV-EIAを実施したところ、 1件が陽性(genogroup II; G2)であった。さらに、 糞便からQIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)によりRNAを抽出し、 DNase処理後、 randomおよびoligo dtプライマーを用い、 Super Script II RT(Gibco BRL社)で逆転写反応を行った。そして、 TaqMan Universal PCR Master Mix(ABI 社)を用いて、 リアルタイムPCRを行ったところ、 2件の糞便からそれぞれ 5.4×105copy/g、 1.3×107copy/gのNLV(genogroup I; G1)が検出された。

食材のNLV 検索は、 喫食した食品と同一ロットのウチムラサキ貝についてのみ行った。貝3個の中腸腺を20%乳剤にし、 超遠心後、 RNAを抽出し、 リアルタイムPCRで、 G1とG2がそれぞれ280copy/個、 340copy/個検出されたことから、 このウチムラサキ貝が原因食品と推定された。

保健所の追跡調査によると、 このウチムラサキ貝は中国産の冷凍品であり、 2000年7月に約15.5トン輸入され、 全国の市場に流通販売されているが、 昨年販売されたものは現在までに、 健康被害等の苦情の報告はないとのことである。

ウチムラサキ貝は一般的に冬〜早春が旬であるが、 冷凍によって長期間保存でき、 夏季にも販売されることから、 この時期に発生する食中毒でも食材に二枚貝が含まれているときはNLVが起因となることを示した事例である。

なお、 糞便とウチムラサキ貝から検出されたNLVについては、 現在シークエンスを行っている。

終わりに、 ウチムラサキ貝の輸入・販売等情報の提供をしていただいた東京都港区みなと保健所、 福岡市食品衛生検査所、 鹿児島市保健所および関係機関の方々に深謝いたします。

鹿児島県環境保健センター
新川奈緒美 上野伸広 本田俊郎 吉國謙一郎 有馬忠行 湯又義勝 伊東祐治
鹿児島県徳之島保健所
増満弘史 田中嘉文 中野秀人 馬場俊行 中俣和幸
国立公衆衛生院 西尾 治

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