自然災害時のレプトスピラ症:鳥取西部地震による井戸水汚染が原因と考えられるレプトスピラ症の1例
(Vol.22 p 165-165)

レプトスピラ症はレプトスピラ属細菌の感染によって起こる人獣共通感染症である。今回我々は、 地震により井戸水の汚染がおこり、 その井戸水を飲んだことが原因でレプトスピラ症を発症したと思われる1例を経験したので報告する。

症例:48歳、 男性。主訴は悪寒、 発熱、 全身倦怠感、 筋肉痛。2000年10月6日に鳥取西部地震が発生し、 自宅の水道水が一時的に停止してしまったため、 少し濁っていた井戸水を飲んでしまった。10月10日より38℃台の発熱が出現し、 13日に当院受診、 入院となった。

入院時体温39.5℃、 脈拍92・整。眼瞼結膜に貧血はなく、 眼球結膜に充血を認めた。黄疸なし。表在リンパ節触知せず。胸・腹部異常所見なし。四肢には異常所見認めず、 皮膚、 粘膜に出血傾向なし。検査所見では、 WBC 11,000/μl(好中球88%)、 Hb 14.9g/dl、 Plt 47,000/μl、 T.Bil 0.8mg/dl、 AST 39IU/l、 ALT 26IU/l、 LDH 176IU/l、 BUN 12.8mg/dl、 Cr 0.69mg/dl、 CRP 26.0mg/dlであった。喀痰、 血液、 尿培養で有意菌は検出されなかった。強い炎症反応、 血小板減少を認めたことから重症感染症の存在を考え、 ピペラシリン3g/日の投与を開始した。第3病日より眼球結膜の充血、 頭痛、 腓腹筋痛が著しくなるとともに黄疸が出現したこと、 および濁った井戸水を飲んだ既住があることからレプトスピラ症を疑いミノサイクリン300mg/日を開始した。その後、 第5病日には解熱を認め、 全身状態は改善し、 良好な経過をとり11月21日に退院した。

10月13日、 11月16日のペア血清を用いたBML でのレプトスピラの凝集検査で、 検査したレプトスピラの5血清型のすべてに4倍以上の抗体価の上昇が認められたが(10倍以下から40倍へ)、 最終的な血清型の同定はできなかった。そこで、 国立感染症研究所細菌部にて同じペア血清を用いて凝集試験を行ったところ、 11月16日血清でLeptospira interrogans serovar autumnalis に対する抗体が160倍以上と陽性(10月13日血清は10倍以下)になり、 レプトスピラ症と確定診断した。

考察:現在、 本邦でのレプトスピラ症の発生は沖縄県を除いて稀なものとなっている。しかしながら、 我々の調査では、 わが国のドブネズミなどにおいても、 現在でもレプトスピラを保菌していることが確認されている。したがって、 今回の地震の時のような自然災害の発生時には、 ネズミの尿に汚染された水などを介して、 レプトスピラへの感染の機会が増大するものと考えられる。また、 東南アジアなどの流行地では、 洪水の発生時期のレプトスピラ症の流行が疫学的に確認されている。以上のことから、 自然災害時にみられる不明熱を呈する疾患の鑑別にはレプトスピラ症を考慮するべきである。

国民健康保険日南病院内科 青木智宏
国立感染症研究所細菌部  小泉信夫 渡辺治雄

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