The Topic of This Month Vol.22 No.6(No.256)


腸管出血性大腸菌感染症 2001年4月現在
(Vol.22 p 135-136)

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli :EHEC、 あるいはVero毒素産生性大腸菌:VTEC、 志賀毒素産生性大腸菌Shiga toxin-producing E. coli :STEC)による感染症は、 1999年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」において、 3類感染症として位置づけられ、 診断した医師は直ちに患者および無症状病原体保有者を届け出る義務が課せられている。

表1に旧厚生省伝染病統計および感染症発生動向調査によるEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)報告数を示す。2000年は3,622人と1999年の2,957人を上回った。週別報告数は例年同様夏季に増加している(図1)。2000年における都道府県別の人口10万人当たりの発生状況をみると、 東北、 北陸、 近畿、 中国、 九州地方で一部やや多い地域がみられる(図2)。秋田県、 岩手県、 鳥取県、 佐賀県、 宮崎県は1999年に引き続いて多かった。図3に2000年のEHEC感染者の年齢分布を示す。0〜4歳がもっとも多く、 5〜9歳がこれに次ぐ。有症者の比率は若年層で高く(19歳以下で74%)、 成人層では約半数(20歳以上で53%)が無症状者で、 前年とほぼ同率であった(本月報Vol.21、 No.5参照)。性別は19歳以下では男1048人、 女942人と差が少ないが、 20歳以上では男570人、 女1,054人と女性が多かった。

一方、 地方衛生研究所(地研)から送られたEHEC検出報告数をみると(http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph-lj.html)、 1991〜1995年までは毎年100前後であったが(本月報Vol.17、 No.1参照)、 1996年に3,022と激増した後、 1997年1,968、 1998年2,054、 1999年1,933、 2000年1,656と推移している。1999〜2000年に感染症発生動向調査によるEHEC感染者報告数が増加している(表1)にもかかわらず、 菌の検出数が減少しているのは、 すべての菌株検出の情報が地研に届いていないことによるのであろう。

集団発生事例については、 1996年に小学校を中心とした食中毒事例が多発したものの(本月報Vol.19、 No.6参照)、 1997年以降は小学校での大規模集団発生の報告はない。しかしながら、 2000年には保育園4件に加え、 病院等における集団発生も2件報告されており(表2)、 施設における集団感染が依然として続いている。この一因として、 EHECは少量の菌でも感染を起こし、 食品媒介感染以外にも人→人伝播による二次感染が起きやすいことが挙げられる(本月報Vol.17、 No.8参照)。EHEC感染症集団発生予防には、 食中毒対策および施設内感染対策をさらに徹底する必要がある。ちなみに2000年の集団事例の中で汚染原因食品等が特定されたのは、 千葉県の事例(イベント会場で提供された牛の丸焼きが原因食;本号5ページ参照)のみであり、 富山県の病院での事例では給食のレタスから菌が分離されたものの、 汚染原因食品とは特定されなかった(本月報Vol.21、 No.9参照)。

EHEC感染症で溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こした場合は重症となる。HUSは主に小児にみられ、 原因菌はO157がほとんどである(本月報Vol.17、 No.1参照)。2000年においてもHUSが報告された菌検出例は小児に多く(0〜1歳4人、 2〜5歳18人、 6〜15歳8人、 40歳以上1人)、 31人中30人からO157が検出されている。

1999〜2000年に検出されたEHECの血清型および毒素型を表3に示した。O157:H7の割合は、 1991〜1995年では83%(436/525)と高かったが、 その後年々漸減し、 1999年は55%まで低下していた。しかし、 2000年は56%で前年とほぼ同率であった。一方、 O26、 O111などO157以外の血清型の割合は、 1991〜1995年では9.3%と低かったが、 1996年以降増加が続き、 2000年には30%となった。中でも特にO26:H11が増加した。これらの傾向は、 2000年に起きた集団発生事例の原因菌の血清型でも同様であった(表2)。また、 1999年にはO86感染でのHUSによる死亡例(本月報Vol.20、 No.11参照)、 2000年にはO121感染によるHUS症例も報告されており(本号7ページ参照)、 今後も引き続きO157以外の菌の動向について詳細に把握する必要があろう。

1996年にはO157:H7分離菌の87%がVT1とVT2の両毒素を保有していたが、 2000年にはその頻度が54%まで減少した。一方、 O157:H7でVT2のみを保有する分離菌は、 1996年では13%であったが、 2000年には42%にまで増加した。O26やO111では9割以上がVT1単独保有であった。

2001年速報:本年5月27日までに診断されたEHEC感染者の届出数は668人(6月5日現在)であり(表1)、 2000年同期を大きく上回っている(図1)。2月下旬〜3月にかけて滋賀県、 富山県、 奈良県においてビーフ角切りステーキを原因食品とする6人のO157:H7による患者が発生した(本号3ページ4ページ参照)。また、 3月中旬〜4月下旬にかけては、 千葉県、 埼玉県、 東京都、 神奈川県、 群馬県、 茨城県、 山形県において牛タタキまたはローストビーフを喫食した193人がO157に感染し(うち無症状者53人)、 13人がHUSを発症している(本号3ページ参照)。いずれの事例も原材料である輸入冷凍牛肉が汚染源と考えられ、 多地域に食材が流通していたために広域に被害が発生した、 いわゆる"diffuse outbreak"であった。

広域に流通する食品・食材を原因とするEHEC感染症が発生した場合には、 各機関の協力のもとに迅速に検知および対応を行い、 被害の拡大を未然に防止する努力が求められる。このため、 各地研で分離されたEHECのパルスフィールド・ゲル電気泳動法によるDNAパターンの画像データを比較解析するパルスネットが検討されている(本号8ページ参照)。EHEC感染症が増加する夏場に向けて、 一層の注意喚起が必要である。

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