日本におけるパルスネットの構築に関して
(Vol.22 p 142-143)

感染症の集団発生時に分離された複数の菌の間における相互の関連性を識別・確定させることは疫学調査における重要なステップの一つである。現在では、 都道府県や国を越えて人の移動、 および食品等の流通が行われるようになっており、 それらを通して感染症が伝播したり、 拡大したりする危険性が増している。このような状況においては、 感染症の拡大を未然に防ぐために、 感染源の迅速なる把握、 およびそれに対する適切なる対策が要求されており、 そのためには原因となる病原体の検出・同定、 および分離された病原体間の関連性等に関する科学的データを得ることが不可欠である。

細菌間の関連性を調べる技術の中で、 現時点において最も信頼のおける技術は、 パルスフィールド・ゲル電気泳動法(pulsed-field gel electrophoresis, PFGE)である。分離菌の識別を迅速に行い、 感染の拡大防止に寄与するために、 日本全国の地方衛生研究所(地研)を結ぶPFGEネットワーク(パルスネット)を構築するための試行を本年度から開始する予定にしている。まずは対象菌として腸管出血性大腸菌(EHEC)を挙げ、 以下のように進めることを考えている。

 1)都道府県(地研)で、 標準化されたPFGEを用いて実施されたEHECのDNAパターンを画像としてコンピューターに取り込み、 国立感染症研究所(感染研)へインターネットを用いて電送する。

 2)感染研では送られてきたPFGEの画像を用いて、 集団発生、 あるいは離れた地域で分離された原因菌株間の菌学的関連性について解析し、 その情報を地研等に還元し、 感染の原因究明および感染拡大防止等に役立たせる。

 3)解析情報を適時にネット上で公開し、 地研および保健所がその情報を利用できるようにする。

初めから、 すべての地研を対象にするのは技術的に難しいため、 まずは各ブロックの代表地研が参加し、 漸次拡大させる予定である。関係各位のご協力をお願いいたしします。

詳細は、 平成12年度厚生科学研究費[パルスフィールド・ゲル電気泳動法(pulsed-field gel electrophoresis, PFGE)の標準化および画像診断を基盤とした分散化システムの有効性に関する研究](代表:感染研・渡辺治雄)の報告書を参照下さい。

国立感染症研究所細菌部 渡辺治雄 寺嶋 淳

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