牛が感染源と考えられた志賀毒素産生性大腸菌O121によるHUS発症事例−秋田県
(Vol.22 p 141-142)

牛から井戸水の汚染を介して小児が志賀毒素産生性大腸菌(腸管出血性大腸菌とも呼ばれている、 以下はSTEC)O121に感染し、 溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症したと考えられる事例の概要を報告する。

2000(平成12)年10月7日にHUSを発症した1歳3カ月の女児から分離された大腸菌がstx 確認検査のために県内の医療機関から当所に送付された。当該株はstx 2陽性のSTEC O121であることが判明し、 担当保健所が感染源調査などの行政対応を実施した。

患者家族の検査成績を表1に示した。患者の父と兄弟がSTEC O121 stx 2+、 母と叔母がSTEC O91 stx 1 +陽性であり、 本事例がSTEC O121とO91による家族内混合感染事例であることが明らかになった。家族はいずれも無症状であり、 母は10月25日、 兄弟は10月11日の再検査でSTEC陰性であることが確認された。患者はその後回復した。

表2に患者宅の感染源調査結果を示した。10月7日に家族の糞便とともに採取されたふきとりと堆肥はSTEC陰性であったが、 患者宅の井戸水からSTEC O121 stx 2+が検出された。この結果を受けて10日と11日に採取された井戸水のうち、 11日に採取された井戸原水と給水栓水がSTEC O121 stx 2+陽性であったことから、 井戸水が断続的な汚染を受けているものと考えられた。一方、 疫学調査により、 患者宅の近隣に牛舎があること、 患者が居住する集落では井戸水を使用している家庭が多いことが判明した。このことから、 10日と13日に患者宅や牛舎の近隣の家庭の井戸4箇所の水を採取してSTECの検索を実施したところ、 これらはすべて陰性であった。また、 10日に採取した牛舎下流の水路の水はSTEC陰性(表3)であった。牛舎の調査が実施されるまでに紆余曲折があり、 10月31日に牛舎飲料水や牛舎下流の水路の水とともに牛糞7検体が搬入された。

表3に示すとおり、 牛糞2検体からSTEC O121 stx 2+とSTEC O111 stx 1+が分離された。直ちに患者と患者の家族、 井戸水、 そして牛糞から分離されたSTEC O121のXba Iパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを比較したところ、 供試株のPFGEパターンが同一であることが確認された。患者宅の井戸は外枠が破損し、 井戸周辺の水が井戸水に混入し得る状態にあったことが判明していた。これらの事実から、 本事例では牛糞中のSTEC O121が患者宅の井戸水に混入し、 家族内感染を引き起こしたものと考えられた。井戸はその後消毒され、 10月31日の検査でSTEC陰性が確認された。また、 破損していた外枠も修理された。

STEC O121は本月報Vol.19 p.226に既報のとおり、 ラクトースからの酸産生が1夜培養では陰性であった。また、 本菌はCTに耐性であったことから、 分離培地にはCT加マッコンキー平板とDHL平板を併用した。井戸水からの本菌の分離は以下のとおり実施した。検水3lをろ過したメンブランフィルターをトリプチケースソイブロスに投入し、 35℃で1夜培養した後PCRによりstx のスクリーニングを実施した。陽性となった培養液を福島(島根県保健環境科学研究所)の方法に従い塩酸処理した後、 CT加マッコンキー平板で分離培養した。10月7日に採取した井戸水の培養液はPseudomonas 様細菌の混在が著しく、 塩酸処理なくしてはSTEC O121を分離し得なかった。なお、 我々はその他のSTECの分離に際しても塩酸処理が極めて有効であることを経験している。

秋田県では1996(平成8)年にも牛が原因と考えられるSTEC感染事例が発生している(本月報Vol.18、 p.132)。牛がSTEC感染の発生要因に関与することに留意する必要がある。

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊藤志保子 伊藤 功

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