2000/01シーズンのB型インフルエンザウイルス:B/Victoria系統のウイルス分離
(Vol.22 p 112-114)

2000/01シーズンのインフルエンザの流行は、 昨シーズンに比べて立ち上がりが遅く、 また、 その規模も昨年の約4分の1程度であった。今シーズンは4月15日現在でA/ソ連(H1)型1,471株、 A/香港(H3)型507株、 B型1,489株が分離されており、 A/ソ連型ウイルスとB型ウイルスが流行の主流であった。本稿においては2シーズンぶりに流行したB型ウイルスの解析結果について途中経過を報告する。

B型インフルエンザウイルスには、 B/Yamagata(山形)/16/88で代表される山形系統とB/Victoria/2/87で代表されるVictoria系統が併存している。今シーズン日本で分離されたB型ウイルス株の大部分は山形系統に属するものであった。分離株の初期抗原解析を国立感染症研究所(感染研)から配付した山形系統のワクチン株であるB/Yamanashi(山梨)/166/98株に対するフェレット感染抗血清を用いて、 全国の地方衛生研究所で実施した結果、 分離株の大半はB/山梨株とは抗原性が異なっていることが分かった。感染研呼吸器系ウイルス室では、 抗原性の異なる各グループの中から約18%に相当する数のウイルス株について、 10種類のフェレット標準抗血清を用いて、 詳細な抗原分析を行った。B/山梨類似株は少なく、 分離株の大半はB/Sichuan(四川)類似株であり、 これらが今シーズンの流行の主流であったことが示された。しかし、 いずれの抗血清に対しても低い反応性しか示さない株も徐々に増えつつある傾向が見られた。一方、 南半球や欧米における流行の主流もB/四川類似株であったことから、 WHOによる2001/02シーズンのB型インフルエンザワクチンにはB/四川類似株が推奨された。

一方、 山形系統とは抗原的にも遺伝的にも別系統になるVictoria類似株は、 東アジア地域で少数ではあるが分離されつづけている。わが国においては、 昨シーズンはVictoria系統の株が全く分離されなかったが、 2001年になって堺および秋田で分離された3株[B/Sakai(堺)/8/2001、 B/Akita(秋田)/5/2001、 B/Akita(秋田)/8/2001]がこの系統に属することが確認された。これら3株は最近作製したB/Shangdong(山東)/7/97(Victoria系統の標準株)に対するフェレット抗血清には反応せず、 HA遺伝子解析によって同定された。これら分離株の系統樹解析では、 いずれもB/山東/7/97とは別の分枝を形成していることが示された。一方、 最近香港から入手した情報によれば、 2001年に入って当地でも4株のB/山東/7/97類似株が分離されている。我々は、 これらのうち解析された3株のHA遺伝子配列データを入手して、 日本の上記分離株との関連性を比較したところ、 1株[B/Hong Kong(香港)/22/2001]がB/秋田/5/2001およびB/堺/8/2001と近縁であることを確認した。香港においても我々の場合と同様に、 フェレットで作製した抗B/山東/7/97抗血清では同定できず、 山羊で作製した高度免疫血清で初めて同定されたことや、 遺伝的にも変化していることなどから、 今年になって日本で分離された株はB/山東/7/97からさらに変化している可能性が考えられる。現時点では、 Victoria系統のウイルス分離数は少ないが、 今後、 これらウイルスの動向にも注視する必要がある。

本稿に記載したサーベイランスは、 全国都道府県、 政令指定都市衛生研究所の協力のもとに行われた。改めて、 謝意を表したい。

国立感染症研究所ウイルス第1部呼吸器系ウイルス室
小田切孝人 西藤岳彦 斉藤利憲 板村繁之 渡辺真治 今井正樹
堺市衛生研究所 前田章子 田中智之
秋田県衛生科学研究所 斉藤博之 原田誠三郎 佐藤宏康

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