ワクチン接種児からの接触感染が確認された成人のポリオ麻痺事例−宮崎県
(Vol.22 p 63-63)

2000年5月25日、宮崎市保健所に急性弛緩性麻痺(AcuteFlaccidParalysis:AFP )患者の発生の届出があり、「ポリオ根絶証明のためのポリオ様疾患患者発生動向調査」に基づき調査を行った結果、ポリオワクチンを接種した子供(次女)を感染源とするワクチン関連麻痺(Vaccine Associated Paralytic Poliomyelitis:VAPP)と判明したので概要を報告する(本月報Vol.21、No.10 、p.6 参照)。

患者(ワクチン歴不明、37歳、男性)は5月17日より発熱(38.9℃)、5月19日に左下肢の弛緩性麻痺が出現し、その後右下肢、左右上肢に麻痺が進行した。これらの臨床症状およびMRI 所見、髄液検査所見(細胞数 2,508/3mm3 、蛋白78mg/dl)からGuillain-Barrè症候群でなくポリオが強く疑われた。疫学的調査では、患者および患者周囲の接触者にポリオ常在地への海外旅行歴はなく、次女が4月26日にポリオワクチン2回目を接種していたことが確認された。また、患者の居住地では類似の麻痺を呈することのある手足口病は流行していなかった。

原因ウイルスおよび感染経路を調査するために、患者の髄液、便、咽頭ぬぐい液、および次女の便からVero、 HeLa、 CaCo-2、 L20B細胞を用いてウイルス分離を行った。分離株については、中和試験で型別を行い、型内鑑別および組み換えウイルスの可能性を検討するためにそれぞれVP1領域、3Dポリメラーゼ(3D)領域のPCR-RFLPを行った。そして5`非翻訳領域、VP3領域を加えた4領域の一部の塩基配列を決定し、Sabin株と比較した。その結果、髄液からのウイルス分離は陰性であったが、ポリオウイルス3型が患者の便と咽頭ぬぐい液および次女の便から分離された。PCR-RFLPでは、患者と次女由来株ともにVP1領域がSabin 3型、 3D領域がSabin 1型の切断パターンを示す組み換え体であった。また5`非翻訳領域、3D領域では両由来株の塩基配列が一致した。なおSabin株の毒力に関わるとされる塩基番号2034のUがCに、6203のCがUに両由来株とも変異し、アミノ酸置換が起きていた。また、次女由来株の3D領域ではSabin 2型の切断パターンもみられた。

さらに、患者周囲への二次感染の有無を調査するため、医療従事者(63名)、家族等(次女以外9名)の便を対象にCaCo-2細胞によるウイルス分離を行ったが、ポリオウイルスは分離されなかった。

以上の結果と、患者が発熱する11日前にワクチンを接種した次女の排便の世話を行っていたことから、本事例はワクチン由来株が原因のコンタクトケースであることが確認された。また、このようなケースでは患者便の次亜塩素酸ナトリウム浸漬後の廃棄、シーツなどの次亜塩素酸ナトリウム浸漬消毒、医療現場でのマスクの着用、手洗いの励行等の一般的な感染症対策、およびワクチン接種歴のあるスタッフの配置により二次感染は防げることが示唆された。

なお、今回の事例においてPCR-RFLPおよびシークエンスを実施していただいた国立感染症研究所ウイルス第2部の方々に深謝いたします。

宮崎県衛生環境研究所
木添和博 山本正悟 吉野修司 岩城詩子
潤和会記念病院 矢野隆郎
宮崎市保健所
平松百合子 阿波野祥司 馬場文子
宮崎県都城保健所
山内裕子 瀬尾のり江 高橋明子
宮崎県保健薬務課
古家 隆 末永啓二 元明秀成

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