Salmonella Schwarzengrundによる集団食中毒事例−広島市
(Vol.22 p 35-36)

2000年8月30日、市内の病院から食中毒患者の届出が広島市保健所にあり事件を探知した。聞き取り調査の結果、患者は8月26日夜に友人3人と飲食店で喫食し、4人全員が食中毒症状を呈していた(グループA)。一方、同日、別の食中毒患者の届出があり、調査の結果、8月27日昼に家族4人が同じ飲食店で喫食し、4人とも発症していることが判明した(グループB)。この2グループに共通の喫食施設は当該施設以外にはなく、細菌検査の結果、この2グループ、各2名の便からサルモネラが検出された。分離菌株の血清型はSalmonella Schwarzengrundであった。また、調査時に採取した食品のうち、患者発生後に調理された「ナスのネギトロ」1検体および調理従事者3名の便からもS. Schwarzengrund が分離されたことから、この飲食店を原因施設と断定し、営業停止の措置がとられた。その後、26日喫食の他の3グループ(グループC、D、E)7名および従事者4名からも同血清型のサルモネラが検出された。これらの分離菌株は、6薬剤に同様の感受性を示し、XbaIおよびBlnIによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析によっても同様の泳動パターン(図1XbaI泳動像)を示した。このことから、26日および27日の患者のいずれも同一菌によって汚染された食品が原因となったものと推測されたが、発生当時の食品・食材が残っておらず、この菌による原因食品および汚染経路を、細菌検査から特定することはできなかった。しかし、(1) 調理従事者11名中7名が同菌を健康保菌していたこと、(2) 発生時以後に調製された「ナスのネギトロ」から同菌が検出されたこと、(3) 調理施設のスワブから高率にCitrobacter が検出され、調理環境全般の不衛生さが認められたこと、(4) 施設においてネズミなどは確認されておらず、これらからの汚染は考えにくいことなどを総合すると、調理従事者、あるいは調理環境を介しての食品汚染があった可能性が考えられた。当該施設は「揚げたて天ぷら」を提供する店で、利用客の目の前で調理し提供する形態から、増殖の時間はなく、加熱温度も適正であった。一方、その他に提供された「野菜サラダ」や「漬物」等には加熱工程がないことから、これらの食品への二次汚染が主な原因と考えられた。以上、本事例は、調理人あるいは環境からの食品汚染によって発生した可能性が高く、二次汚染の観点からの防止策の必要性が再認識される事例であった。

なお、本血清型は、わが国で検出されるサルモネラ血清型の20位前後に位置し、比較的、稀な血清型である。広島市では、過去、河川水あるいは下水から例年数株程度検出されているものの、この血清型による集団食中毒は過去に発生しておらず、1997年〜1999年までの過去3年間、本市の散発性食中毒届出の中にもみられない血清型であった。

広島市衛生研究所
石村勝之 児玉 実 橋渡佳子 山本美和子 毛利好江
佐々木敏之 河本秀一 笠間良雄 山岡弘二 荻野武雄

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る