社員食堂で発生したウイルス性食中毒−滋賀県
(Vol.22 p 31-32)

2000(平成12)年12月8日〜9日にかけて、県内の一事業所で多くの従業員が下痢、嘔吐を主徴とする胃腸炎を発症しているとの報告が保健所にあった。

事業所には120名が勤務しており、その週には105名が社員食堂を利用している。今回の発症者はすべて昼食での食堂利用者であり、他に共通食がないこと、事業所内9課のうち7課に発症者が分散し、各課での発症率が23〜50%であったため特定の作業が原因ではないこと、さらに事業所勤務者間で密接な接触があったとは考えられないことから、社員食堂を原因施設とする食中毒が疑われた。なお、事業所の使用水は上水であり、同時期に当該地域における集団胃腸炎の報告は他にはなかった。

発症者は40名で、食堂利用者の38%であった。主な症状は、下痢30名(75%)、嘔吐22名(55%)、嘔気29名(73%)、発熱19名(48%)、平均最高体温37.7℃であった。また、発症時刻は8日夜〜9日朝に一峰性に分布していた(図1)。11日および12日に発症者7名の糞便を採取し、プライマーSR33、 SR46、 SR48、 SR50および SR52 (Andoら、 J. Clin. Microbiol., 33,1995)を用いてRT-PCRを行い、得られたPCR産物についてサザンブロットハイブリダイゼーションを行ったところ、5名の糞便からP2B型のノーウォークウイルス遺伝子が検出された(genogroup II)。また、細菌検査の結果、いずれの糞便からも食中毒起因菌は検出されなかった。社員食堂の従事者3名全員について1名は11日に、他の2名は14日に糞便を採取しウイルス検査を行ったが、結果はすべて陰性であった。

7日の昼食が原因と仮定すると、平均潜伏時間は42時間となり、ノーウォークウイルスによる食中毒の潜伏時間と一致するため、これが原因食事であると推定された。この日のメニューは、鶏肉大葉揚げ、エノキとほうれん草のおひたし、ご飯、みそ汁、皿うどん、カレーライスおよびサラダであった。喫食調査の結果、エノキとほうれん草のおひたしを食べた者に発症者が有意に多かった(χ2=4.47、 p<0.05)。そこで、食材であるエノキおよびほうれん草、さらにおひたしの残品についてPBSを用いてそれぞれ2倍乳剤を作製し、35,000rpm150分間遠心分離後、沈査を100μlの蒸留水に浮遊させたものについて糞便と同様にRT- PCRを行ったが、いずれもウイルス遺伝子は検出されなかった。

ノーウォークウイルスは、かき等の二枚貝による食中毒の原因ウイルスとして検出されることが多いが、今回の事例では、推定原因食事のメニューには貝類は含まれていなかった。食堂従事者あるいは食材から持ち込まれたウイルスが調理の過程で食品を汚染したと考えられるが、従事者および推定原因食品からウイルス遺伝子は検出されず、汚染経路の確定はできなかった。

滋賀県立衛生環境センター 吉田智子 大内好美 横田陽子
滋賀県水口保健所 奥田大史郎 中村直美 丸田真治 福田弘一
滋賀県草津保健所 杉山信子

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