抗マラリア薬の供給体制
(Vol.22 p 28-29)

抗マラリア薬は特にわが国においては、メーカーが開発し発売にこぎつけても、それに見合うだけの収益を期待できない、いわゆる稀用薬に属する。しかし、多数ではなくても国内にマラリア患者が発生し、特に熱帯熱マラリアでは短期間で重症化・死亡に至る危険があるので、海外で市販されている抗マラリア薬の導入が必要である。このような状況に鑑み、抗マラリア薬のみならず輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀用薬を広く対象として、1980年に厚生省研究事業として「熱帯病の薬物治療法に関する研究班(班長:田中 寛)」が発足し、それらの薬剤の確保・供給の体制を確立することになった。そこではまず海外の製薬企業に薬剤を発注し、厚生省薬務局監視指導課(当時)より輸入許可を得て通関する。その後国立衛生試験所(現:国立医薬品食品衛生研究所)で成分分析などを行い、わが国での医薬品としての規格に適合することを確認してから、全国の指定の保管機関に配付する。国内のどこで患者が発生しても、必要な場合にはそれら薬剤の使用が可能であるような体制づくりを目指すものである。これは1988年には厚生省新薬開発研究事業「熱帯病治療薬の開発研究班(班長:田中 寛)」に再編された。この両者の研究班の時期には、研究班に集積された臨床成績を基に関連する製薬企業の努力により、チアベンダゾール(ミンテゾール)(糞線虫症)、スルファドキシン/ピリメタミン合剤(ファンシダール)(マラリア)、メベンダゾール(メベンダゾール)(鞭虫症)、プラジカンテル(ビルトリシド)(肝吸虫症、肺吸虫症、横川吸虫症)などが承認を受けることになった。

さらに1993年には、同年に薬事法および医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部改正で稀用薬に対する開発援助が行われることになったのを受けて、厚生省オーファンドラッグ研究事業「熱帯病治療薬の開発研究班(班長:大友弘士)」に再々編成された。この間には多包虫症の治療にアルベンダゾール(エスカゾール)が承認されたが、これにも研究班でのデータが活用された。またこの時期には、研究班が確保する薬剤と保管機関の大幅な見直しを行った。

現在は、1998年4月から発足したヒューマンサイエンス総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対するオーファンドラッグの臨床評価に関する研究班(班長:大友弘士)」の元に活動を続けている。現時点での薬剤保管機関(表1)と保管薬剤(表2)を示すが、マラリアに関しては、世界的に熱帯熱マラリアの薬剤耐性が進みつつあることから、それらに対応するためのアトバコン/プログアニル合剤(マラローン)、アーテミシニン(チンハオス)誘導体であるアーテスネートを新規に導入した。また、古典的であるが重症熱帯熱マラリアの治療に欠かせない注射用キニーネを以前と同様に確保している。ちなみに、現段階で国内で認可されている抗マラリア薬は経口キニーネと経口スルファドキシン/ピリメタミン合剤(ファンシダール)の2種類のみである。

現在の研究班ではさらに、2000年にヨーロッパにおいてラッサ熱が4例輸入されたことも鑑み、抗マラリア薬ではないがリバビリンの経口製剤も輸入した。さらに、薬剤保管機関が単に薬剤を供給するのみならず、国内においてマラリアその他の輸入熱帯病・寄生虫症の臨床対応が適切に行われるよう、診断や治療全般に関する相談にも応じる体制を目指している。

国立感染症研究所感染症情報センター 木村幹男
東京慈恵会医科大学熱帯医学教室   大友弘士

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