The Topic of This Month Vol.22 No.1(No.251)


ハンセン病
(Vol.22 p 1-2)

ハンセン病とは:ハンセン病は抗酸菌の一種であるらい菌(Mycobacterium leprae)による感染症である。現在までらい菌の培養には成功していないため、らい菌はヌードマウスの足蹠へ接種して増殖させている。らい菌には亜型や毒素などを認めていない。ハンセン病は主に皮膚、末梢神経に病変をおこす。有効な抗ハンセン病剤での治療が行われていなかった時代(1955年頃まで)には四肢や顔面などの変形が重度になったことなどで、患者は偏見や差別を受けてきた。患者および病気に対する誤解や偏見は現在でも完全には解消されたとはいえない。

感染と発病、病型:人への感染は乳幼児期に、らい菌を多数排菌している患者との濃厚接触によって、らい菌が経気道的に入り起こる。感染後数年から十数年の潜伏期を経て発病する。最近の日本人の症例では数十年の潜伏期を経たと考えられる高齢者での発病も報告されている。

各個人のらい菌特異的な免疫能の差によって病型に差がみられる。発症初期はI群(indeterminate leprosy、未定型群)といい、その後病気が進行し病像が完成されていく。完成された病型は免疫能が高いTT型(tuberculoid leprosy、 類結核型)、らい菌に対して免疫能がないLL型(lepromatous leprosy、 らい腫型)、それらの中間のB群(borderline leprosy、 境界群)に分類される(B群はさらにBT型、 BL型、 BB型に細分できる)。また菌の多少で少菌型(paucibacillary: PB)と多菌型(multibacillary: MB)に分類され、治療法の選択に応用されている。検査でらい菌を検出しにくいTT型などはPB、 検査でらい菌を検出できるLL型などはMBに分類される。

法律:わが国では、 1907年(明治40年)にハンセン病に関する「癩予防ニ関スル法律」が公布され、その後数回の改正を経て1953年(昭和28年)に「らい予防法」になり、療養所中心の医療が行われてきた。「らい予防法」には強制入所や、外出制限、秩序維持のための所長の権限などが規定されていた。医師が患者を診察した際に、「伝染」させるおそれがある患者は療養所入所となり、そこで生涯を終えることが多かった。今日、わが国ではハンセン病の発病率は低く、また仮に発病しても感染力は弱く、適切な治療により完治するため、1996年この予防法は廃止され、病名は「らい」から「ハンセン病」に変わった。新規患者は一般医療機関で診療が行われている。長期に亘って療養所での診療が行われてきたため、一般の医療関係者にはなじみが薄い疾患である。また、1999年施行の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の前文には「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」と明記された。療養所入所者などの意見が取り入れられ、感染症発生動向調査の対象とはなっていないため、現在、新規患者の発生動向調査は日本ハンセン病学会を中心にして実施されている。

日本のハンセン病患者数:1900年(明治33年)には約3万人のハンセン病患者が報告されたが、1919年(大正8年)には約1万6千人と減少した。1955年頃からは公衆衛生の向上、治療剤の登場などで急速に新規患者数は減少し、最近では毎年10名以下となり(図1)、患者数の多かった沖縄県でも減少が著しい。一方、外国人患者(輸入例)は1991年頃から増加し、毎年10名前後みられる。日本人の新規患者は半数以上が高齢者(60歳以上)で(図2)、日本人のハンセン病の発生はそう遠くないうちに無くなるであろうと推測される。しかし、外国人では20〜30代の患者が多く、特にいまだ患者の多いブラジルやフィリピンからの労働者の発病が散見される。なお、全国15のハンセン病療養所には約4,500名が入所している(平均年齢74歳)。ほとんどは治癒しているが、後遺症や高齢化などのため引き続き療養所にとどまっている。なお現在患者は通常半年〜数年の治療で治癒するが、再発や後遺症の経過観察のため、700名余(元療養所入所者や外来患者など)が通院している(表1)。

ハンセン病の診断:皮膚所見のほか、神経所見、菌の証明、病理組織所見を総合して行う。菌の証明には、(1)皮膚スメア検査(皮膚にメスを刺し、組織液を採取、スライドグラスに塗抹、抗酸菌染色し、1,000倍油浸で検鏡。各施設で実施)、(2)皮膚や神経の病理組織を抗酸菌染色して検出(各施設などで実施)、(3)PCR検査(皮膚組織、血液)でらい菌特異的遺伝子を検出(後述の施設で実施)、などがある。皮膚スメア検査陽性、または病理組織で菌陽性であれば、皮膚/神経所見と総合して、診断は容易である。しかし、両者とも陰性の場合には、PCR検査を参考に皮膚/神経/病理所見を総合して診断する(PCR検査はサンプルの状態や偽陽性・偽陰性の問題もあり、現時点ではPCRの結果は「参考資料」と位置づけられている)。らい菌の検出状況を表2に示した。病理組織検査では、HE染色の他、抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色、原田法)、S100染色、抗PGL-I(らい菌特異的抗原)抗体染色などが行われている。その他、血清の抗PGL-I抗体検査は補助的診断および治療効果判定などに用いられる。なお、現在ではレプロミン反応は用いられない。ハンセン病の患者数が少ないため、特殊な検査は国立感染症研究所ハンセン病研究センター(病理検査、PCR検査、血清抗PGL-I抗体検査)、横浜市立大学皮膚科、琉球大学皮膚科などで実施されているのみである。

治療:WHOが提唱している多剤併用療法(multidrug therapy: MDT)を基本に行われている。リファンピシン(RFP)、ジアフェニルスルホン(DDS)、クロファジミン(CLF、色素系抗菌剤)の3剤を病型によって半年間(PB)ないし1年間(MB)内服する。日本ではMDTを一部修飾して内服剤を増加、治療期間を延長するなどしている。

ハンセン病ネットワーク:ハンセン病を診療する機会の少ない医師・医療関係者に、診療・検査・治療などをアドバイスするネットワークがあり、日本ハンセン病学会を中心に治療経験の多い医師が登録されている(本号3ページ参照)。

世界の状況:WHOが推進しているMDTにより1985年から1999年末までに全世界で1,000万人以上が治癒した。2000年当初の有病者数は75万人に減少し、有病率は1.25/人口1万人と、1985年に比べ86%減少した(PBでは6カ月間、MBでは1年間の治療で治癒とみなし、WHOの登録から削除される。WHOのサーベイランスの診断基準はWHO Expert Committee on Leprosy 7th Report,1998参照)。再発率は年間0.1%程度である。MDTに対する耐性はほとんど無い。また、末梢神経の障害から後遺症が残り(200〜300万人)、社会生活困難な患者も多い。WHOのMDT推進にもかかわらず、新規患者数はいまだに毎年約70万人であるが、これは患者発見技術の向上や、サーベイランスにより今まで見逃していた例を把握できるようになってきたことが一因と考えられる。なお年間の新規ハンセン病患者登録数が多い国はインド(約52.7万人)、ブラジル(約7.3万人)、インドネシア(約2.9万人)、バングラデシュ、ミャンマー、ネパール、ナイジェリア(各約1.3万人)、フィリピン(約0.9万人)などである(WHO, WER 75:226-231&361-368、本号8ページ参照)。

今後の課題:後遺症を残さず治癒する最良の方法は早期発見、早期治療である。そのためのより簡便な検査法の開発が望まれる。また、短期間で治癒可能な抗ハンセン病剤、内服する薬剤の組み合わせ、ワクチンなどについて一層の研究推進が必要である。また世界にはアジアを中心に多数のハンセン病患者がいるので、ハンセン病制圧のために日本の協力が期待される。

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