ガールスカウト夏季キャンプにおける腸管出血性大腸菌O157:H7の集団発生事例
(Vol.21 p 271-272)

2000年8月21日(月)愛知県より、大阪府在住で愛知県の祖父母宅へ遊びに来ていた女児(10歳)から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157(VT2産生)が検出されたが、この女児が所属しているガールスカウト団が8月12日〜14日にかけて大阪府内でキャンプを行っていたため、接触者の調査を依頼する旨連絡があった。直ちに、キャンプ参加者全員に電話で健康調査を行い、また、家族および接触者を対象とした調査によって、合計10名からEHEC O157:H7(VT2産生)が分離された。愛知県より初発患者由来株の分与を受け、11名からの分離株について疫学マーカー解析を行ったので、本事例の概要とあわせて報告する。

感染者調査:健康調査の対象となったのは、ガールスカウト団員(10名)と引率者(3名)、その家族や接触者など59名である(表1)。なお、初発患者(団員A)の家族は含まれていない。

団員Aは8月15日に発熱・鼻水など風邪症状で発症し、翌日から激しい下痢と腹痛を呈し、18日に入院、21日にはHUSを併発した。他の団員のうち有症者は2名で、1名(団員B;9歳)は同日に、もう1名(団員C;10歳)は18日に発症していたが、症状はいずれも軽く、2〜4日の下痢と腹痛のみで軽快していた。家族・接触者のうち有症者はBの妹(家族N;5歳)のみで、8月21日に激しい下痢、血便、腹痛で発症し、翌日より12日間入院した。

8月23日から保健所で糞便検査を実施したところ、23日と24日に受付けた10名のうち、すでに無症状となっていた団員Bと団員Cを含む9名からEHEC O157(VT2産生)が分離された(図1)。また、家族Nは医療機関において22日の便からEHEC O157(VT2産生)が分離された。25日以降も菌陽性者の家族などを対象に調査を行ったが、全員陰性であった。なお、菌陽性者は、その後O157が陰性となったことを確認している。

疫学マーカー解析:本事例で分離された11株の大腸菌は、いずれも血清型はO157:H7、VT2産生性で、ディスク法(BBL)による薬剤感受性試験では、ABPC、SM、TC、CPFX、KM、CTX、CP、ST、TMP、GM、NA、FOMの12剤について感受性であった。

パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)は制限酵素XbaIとBlnIについて実施した(図2)。団員と引率者由来の10株は全く同一パターンを示したが、家族Nでは、XbaI切断でやや大きいサイズ(バンドa)が1本多く、BlnI切断では500kb付近の大きな断片に違いがあり、バンドbが確認されたがcがみられなかったこと以外は同じパターンを示した。全株とも、プラスミドプロファイルは90kbと60kbを保有する型で(図3)、付着性因子としてeaeAがみとめられた。

感染源調査:キャンプの献立は表2のとおりで、保健所で各食材の生産量および流通経路を調査した。このうち、13日晩の煮込みハンバーグには市販のレトルトハンバーグを使用していたが、検査を実施しておらず、感染源を特定できなかった。また、サラダに使ったカイワレは生産者の自主検査でO157陰性であったことが確認されている。

一方、キャンプ場の簡易専用水道は、8月30日に採水して保健所で水質試験を行ったが、一般生菌数5個/ml、大腸菌群陰性、残留塩素0.3mg/lで水道法に基づく水質基準に適合していた。また、この浄水2リットルをろ過し、フィルターをノボビオシン加m-EC培地で36℃一夜増菌培養後、CT-SMACで分離培養を行ったが、O157は分離されなかった。

まとめ:本事例はガールスカウトのキャンプに参加した13名中10名からO157:H7VT2産生)が分離され、その疫学マーカーが一致していたことから、感染源はキャンプの食材あるいは環境汚染が疑われたが、特定するには至らなかった。家族Nは、発症時期が遅れており、姉からの二次感染であると考えられる。

野外キャンプ等では食材の冷蔵保存が困難であり、O157をはじめとする食中毒原性細菌の汚染があった場合、夏季には菌数が増加することが推察されるので、食材の取扱いには注意が必要であると考えられる。

大阪府立公衆衛生研究所微生物課
勢戸和子 田口真澄 河原隆二 小林一寛

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