急激な経過を示したVibrio vulnificus 感染症の1例−千葉県
(Vol.21 p 242-243)

Vibrio vulnificus 感染症は、肝硬変などの基礎疾患を有する患者が、夏期に生の魚介類を摂取することや海水中で創部から感染する日和見感染症である。今回我々は、左肘部腫脹を訴えショック状態となった患者皮下組織よりV. vulnificus を分離した症例を経験したので報告する。

症例:患者は54歳、男性。8年前にC型肝炎と診断され肝硬変となる。2000(平成12)年6月17日、釣った魚を生食、翌日、悪寒、発熱、左肘部腫脹、疼痛により近医に入院。当初虫刺されの跡があったことから、虫刺されによるアナフィラキシーショックと考え処置。その後も左肘部腫脹進展、ショック状態となり当センターへ転院。

入院時、左上肢から左肩にかけて腫張、皮下出血、水疱があり、乏尿であった。検査所見では、代謝性アシドーシス、血圧低下、白血球減少、貧血、血小板減少、白血球分画左方移動、CRP高値、低蛋白血症、肝腎機能異常、CPK高値を認めた。

臨床経過:入院時の状況から大量輸液実施したが状態は改善せず、人工呼吸、カテコラミンによる循環補助実施。左上肢X線写真では皮下ガス像を認めなかった。その後、代謝性アシドーシスわずかに改善したが、筋肉壊死によるものと考えられる高K血症となり心停止、心肺蘇生法にて自己心拍再開。左上肢阻血のため減張切開を施行。高K血症に対し持続血液透析、カルシウム製剤投与およびアンピシリン(ABPC)2g投与行ったが、6月21日、多臓器不全、ショックから回復できず永眠された。

検査法:6月20日に提出された皮膚組織液および皮下組織のグラム染色では、陰性のやや湾曲した桿菌が見られ、チョコレート寒天培地に直径4mm程度の灰白色、正円、S型のコロニーを少数認めた。簡易同定キットによる生化学的性状からV. vulnificus と同定した。また、好塩性試験では3%のみで発育した。さらに、千葉県衛生研究所にPCRを依頼しV. vulnificus であることを確認した。薬剤感受性検査では、ABPC、セファゾリン、イミペネム/シラスタチン、ゲンタマイシン、ミノサイクリンなどを実施したが、いずれの抗生剤に対しても良好な感受性を示した。

考察:本疾患は本邦では1999年までに100例あまりが西日本を中心に報告されており、経過は急激で4割が3日以内に死亡する劇症型を呈する。しかし、健常人に発症することは極めて稀であり、本菌は肝硬変やヘモクロマトーシス患者において増殖する。この理由は、健常人ではトランスフェリンの鉄飽和度が低く、血中遊離鉄濃度が低いためV. vulnificus は発育できないが、これらの患者では血中遊離鉄濃度が高く、トランスフェリンの鉄飽和度も高いため本菌の増殖、病原性が著しく上昇するためなどと説明されている。

本疾患では特徴的な皮膚病変を示すことから、救命率を上げるためにも、速やかな皮膚病変部滲出液のグラム染色や血液培養を実施し、早期診断および治療を心がけなければならない。

千葉県救急医療センター検査科
佐藤正一 三上昌章  菊地広子  金子 恵 鈴木幸子 東條美由紀 小笠原英樹 丸 孝夫
千葉県救急医療センター診療部
高橋良誌 荒木雅彦
千葉県衛生研究所 横山栄二 小岩井健司

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