The Topic of This Month Vol.21No.10(No.248)


エンテロウイルスサーベイランス 1982〜1999
(Vol.21 p 212-213)

エンテロウイルスが引き起こす臨床症状は極めて多彩であるが、そのうち、ポリオウイルスは急性灰白髄炎を起こし、四肢麻痺などの後遺症を残すことが知られている。日本ではポリオ生ワクチン(OPV)の投与開始を契機として1962年に厚生省伝染病流行予測調査(現在は感染症流行予測調査)が開始され、地方衛生研究所(地研)によって健康者のポリオ抗体調査(感受性調査)と、OPV非投与時期の健康児の便からのウイルス分離(感染源調査)が実施され、ポリオウイルスおよび他のエンテロウイルスの動向が全国レベルで調査されている。

一方、1981年、厚生省感染症サーベイランス事業の開始にあたって、小児の代表的なエンテロウイルス感染症である無菌性髄膜炎(AM)、手足口病(HFMD)、ヘルパンギーナが対象疾病となり、患者材料からのエンテロウイルスの分離同定が全国の地研で実施されている。1999年4月の感染症法施行後も感染症発生動向調査の一環として継続され、その結果は国立感染症研究所感染症情報センターに蓄積されている。わが国ではエンテロウイルスが毎年夏季に、AM、HFMD、ヘルパンギーナ、発熱と上気道炎を主症状とするいわゆる夏かぜや発疹症などの流行を起こしていること、秋以降にもこれらの流行が遷延する場合があることが明らかとなっている(本月報Vol.17、No.3Vol.19、No.7Vol.19、No.8参照)。

1982〜1999年に分離されたエンテロウイルス報告総数は59,567で、53の血清型が報告されている(表1)[エンテロウイルスには、ポリオ、コクサッキーA群:CA、コクサッキーB群:CB、エコー:E、エンテロ(EV)68〜71が含まれる]。型別にみると、この間3度の全国的なAMの大流行を起こしたE30が最も多く、次いでCA16、E9、CB3、CB5、CA4の順であった。エンテロウイルスが分離された臨床材料は、鼻咽喉材料、便、髄液が大部分を占める。E30の過半数は髄液から、他の血清型は主に鼻咽喉材料、便から分離された。また、CA16とEV71は水疱内容からも分離されている。

疾患別のエンテロウイルス血清型を図1に示す。髄膜炎患者18,581例、HFMD患者6,857例、ヘルパンギーナ患者8,289例からエンテロウイルスが分離された。髄膜炎患者からはE30が最も多く、HFMD患者からはCA16が過半数を占め、ヘルパンギーナ患者からはCA4、CA10などのCAが大部分を占めた。

ポリオウイルスは毎年100前後の分離(全エンテロウイルス中3.1%)が報告される(表1)。1982〜1999年の分離例の年齢は0〜1歳が85%(1,551/1,825)を占め、ワクチン接種者からの分離がほとんどであった。接種対象年齢(生後3カ月〜90カ月、標準は3カ月〜18カ月)以上の者からの分離も報告されているが(本号3ページおよび6ページ参照)、このうち非ワクチン株と報告されたのは1984年の1型1例(7歳女児、脳炎、咽頭ぬぐい液)、1993年の3型1例(13歳男児、上気道炎、咽頭ぬぐい液)のみで(本月報Vol.18、No.1参照)、いずれも麻痺患者からではなく、株の由来は明らかでない。他はワクチン由来株と考えられる。

1988年からWHOを中心に地球上からのポリオ根絶計画が始まり、ワクチン接種の普及と急性弛緩性麻痺(AFP)患者サーベイランスが行われている。わが国では、1981年以降麻痺患者からの野生ポリオウイルスは分離されておらず、野生株によるポリオはすでに制圧されている状態であった。しかし、WHOの根絶認定の条件を満たしていることを確認するために、1997年よりAFPサーベイランスを強化し(本月報Vol.19、No.5参照)、その結果、ポリオ患者を見逃していないことが再確認された(本号3ページ参照)。この背景として、これまでエンテロウイルスサーベイランスが長年にわたって行われてきたことの意義は大きい。WHO西太平洋地域(WPRO)は2000年10月に、ポリオ根絶宣言を行う予定である(本号3ページ参照)。

2000年の分離状況:9月25日現在のエンテロウイルス分離報告数はEV71が最も多い(表1)。HFMD患者からはEV71とCA16がともに分離されているが、EV71の報告が増加中である(1997年はEV71、1998〜1999年はCA16の方が多かった)。髄膜炎を伴った患者からもEV71の分離が増加している(本月報Vol.21、No.4〜8本号9ページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html参照)。また、脳炎、心筋炎などを起こした重症例からのEV71分離報告も散見される。1997年のマレーシア、1998年の台湾のような小児死亡例の多発(本月報Vol.19、No.7参照)は日本ではみられていないが、今後も監視が必要である。

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