感染症新法に基づく新体制下の病原体検査状況
−今夏のエンテロウイルス等について−

(Vol.21 p 218-220)

愛知県では全国に先駆けて1966(昭和41)年より県独自の事業として、ウイルス定点観測事業を開始し、その後、1981(昭和56)年からは国の感染症サーベイランスで指定されたウイルス性疾患(手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱、無菌性髄膜炎等)の20疾患のうち、単一のウイルスによる疾患であることが確実な麻疹、風疹、水痘等を除いた10疾患と、県独自で指定した上気道炎、下気道炎、発疹症それに不明熱性疾患を加えた全14疾患を対象として、県内5カ所の医療機関を病原体検査定点として実施してきた。

2000(平成12)年4月からは感染症新法(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)の施行を受けて、名古屋市を除く愛知県内の検査定点の数は、県内各地の基幹病院と開業医を含めた26カ所の医療機関、それに中核都市である豊田市、豊橋市で独自に指定された各1カ所の医療機関の合計28カ所にと大幅に増加し、地域医師会をはじめ多くの関係機関の協力を得て、感染症発生動向調査の病原体検査体制の大幅な強化が図られた。

また、名古屋市においては市独自に感染症発生動向調査に関する病原体検査を実施しており、現在名古屋市を含めた愛知県全体のとりまとめについて協議を実施している。

愛知県衛生研究所としては、従来通りウイルス検査を主体とし、組織培養を中心としながらもELISA法、PCR法をも用いた検査体制をとり、少なくとも2カ月以内には結果を還元する体制をとった。また、新たに病原体検査情報用に入力と集計用のプログラムを開発し、可能な限り感染症流行をオンタイムで、またはその流行直後には病原ウイルスに関する集計データを公表できるように新しいシステムを作成した(愛知県衛生研究所ホームページ参照 http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/)。

今回は夏に流行する感染症を中心に、新しい体制による感染症発生動向調査の結果を報告する。2000年4月1日〜9月11日までの間に749名の患者検体が寄せられた。検査依頼のあった患者疾患名の内訳はヘルパンギーナ(114名)、無菌性髄膜炎(92名)、感染性胃腸炎(74名)、手足口病(41名)、咽頭結膜熱(26名)、流行性角結膜炎(11名)、その他(不明・記載無し136名、下気道炎・肺炎57名、不明熱性疾患30名、上気道炎28名等の391名)であった。また、寄せられた検体数を患者発病月別にみると、4月159名、5月182名、6月269名、7月91名、それに8月48名であった。

8月第2週以降に搬入された検体についてはまだ検査が終了していないものが多いが、9月11日時点で各疾患から分離されたウイルスの数および種類は以下の通りである。

ヘルパンギーナ[検査依頼患者数(以下、患者数)=114名、検出数=41株](図1):ヘルパンギーナとの診断名で検体が寄せられた患者数は、4月の9名から、5月29名、6月72名と急増したが、7月には3名、8月1名のみと大幅に減少した。分離された主なウイルスはコクサッキーA(CA)6型(17株)とCA4 (11株)で、この2種類で全体の68%を占めていた。また、5月にはCA6が11株と全体の79%(11/14)を占めていたが、6月にはCA6(24%、5/21株)に対してCA4(33%、7/21株)がやや優勢になっていた。

無菌性髄膜炎(患者数=92名、検出数=16株)(図2):無菌性髄膜炎との診断名で検体が寄せられた患者数は、4月は2名だけであったが、5月18名、6月37名と急増し、その後も7月27名、8月11名の患者検体が寄せられてきている。分離されたウイルスはエコー(E)11型(8株)、コクサッキーB(CB)5型、E3(各4株)であった。

感染性胃腸炎(患者数=74名、検出数=25株)(図3):衛生研究所では、感染症発生動向調査の感染性胃腸炎の病原体検査としては、ウイルスの検査だけを実施している。検体が寄せられた患者の発症月としては4月が31名と半数近くを占め、その後は5月23名、6月15名と減少していた。分離されたウイルスはA群ロタウイルスが15株で最も多く、次いでアデノ(Ad)1型が3株、それにAd5、レオウイルス2型、E25が各1株分離された。

手足口病(患者数=41名、検出数=28株)(図4):5月および6月には、それぞれ20名、19名の患者から検体が寄せられたが、7月、8月には各1名の患者検体が寄せられたのみであった。分離されたウイルスとしてはエンテロウイルス(EV)71型が最多の13名から分離された。また、ウイルスは分離されたものの同定ができなかったUnknownなものが9株分離されたが、EV71やCA16は中和反応による同定が困難な場合が多いことを考えると、これらUnknown株の多くはEV71かCA16である可能性が高いと考えられる。

また、その他のウイルスとしては、手足口病の原因ウイルスとされるCA10、CA16が各1株分離された以外に、一般的には手足口病の原因ウイルスとはされていないCA6(2株)、E3(1株)、Ad2(1株)等のウイルスもこれらの患者から分離された。

咽頭結膜熱(患者数=26名、検出数=13株)(図5):検体が寄せられた患者の発症月としては、6月と7月がそれぞれ9件と多くを占めていた。分離された主なウイルスはAd1(4株)、E3(3株)、それにAd7(2株)であった。

流行性角結膜炎(患者数=11名、検出数=4株):5月4名、7月5名、8月2名の患者検体が寄せられたが、分離されたウイルスはAd3 の2株のみであった。Unknownについては現在タイピング中のものが含まれている。

感染症新法実施による病原体検査定点数の増加により、愛知県独自の事業として実施していた頃の病原体検査事業と比較すると、ヘルパンギーナや手足口病の診断名で寄せられる検体数が大幅に増加した。その結果、これらの疾患に関しては従来と比較し、より正確な病原体検査情報が得られるようになった。しかしながら、指定された検査定点である医療機関から寄せられる検体数、したがって県内各地域から寄せられる検体数に地域ごとに非常に大きなバラツキがあること、また、診断を下す担当医ごとに、少なからずの診断基準の相違があること等、今後解決して行くべき課題も少なくない。

愛知県衛生研究所
榮 賢司 山下照夫 都築秀明 杉山 雅 小林慎一 森下高行 佐藤克彦

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