エンテロウイルス71型感染による手足口病に右上肢弛緩性麻痺を合併した2歳男児の1例
(Vol.21 p 195-195)

今夏、兵庫県加古川市および加古郡における中枢神経合併症を伴う手足口病の流行時に、右上肢弛緩性麻痺を呈した1例を経験したので報告する。

症例は2歳男児。姉が手足口病に罹患後、6月30日より高熱、手足の発疹を認め、近医にて手足口病と診断された。2日間傾眠傾向を示した後、7月2日より座位不能となり、7月3日に右上肢の麻痺に気付き、当科紹介入院となった。

入院時、髄膜刺激症状は認めず、39℃以上の高熱と手足に点状紅丘疹を少数認めた。口腔粘膜には水疱は認めなかった。小脳失調を疑わせる体幹の動揺と右上肢の弛緩性麻痺を認めた。右上肢は、手関節より末梢のみ動かせる状態であった。呼吸症状は認めなかった。

入院時の髄液検査にて、細胞数53/3(単核球39:多核球14)、蛋白22mg/dl、糖69mg/dl、神経特異エノラーゼ24.0ng/ml、ミエリンベーシック蛋白18.1ng/ mlであった。入院時の頭部MRでは炎症像を認めなかった。

入院後、輸液のみで経過観察したところ、第6病日には解熱し小脳失調症状も改善した。しかし、右上肢麻痺が残存するため、第29病日に脊髄MRを施行したところ、C4-5のレベルで脊髄前角にT2強調画像で高信号を呈する病変を認めた。

また、第5病日の便よりエンテロウイルス71型(EV71)が分離された(検査はエスアールエルで実施)。髄液からウイルスは分離されず、PCR法にても陰性であった。

血清学的には、第4病日の血清ウイルス抗体価(NT)は、 CA10<8倍、CA16<8倍、EV71 16倍で、第19病日には、 CA10<8倍、CA16<8倍、EV71 256倍とEV71の抗体価のみ有意な上昇を認めた。

なお、患児はポリオワクチンは2回接種済であり、ペア血清にてポリオウイルス抗体価(1型、2型、3型)の有意な上昇は認めなかった。

患児は現在リハビリを行っており、第53病日の時点で、右上肢は前腕屈曲が可能となり、末梢から次第に回復を示している。

神鋼加古川病院小児科 吉田 茂 箙 ひとみ 今井恵介 三舛信一郎

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る