ノーウォーク様ウイルス(genogroup 1)による集団嘔吐下痢症−兵庫県
(Vol.21 p 198-198)

2000(平成12)年6月に兵庫県下の中学校において、ノーウォーク様ウイルス(SRSV)による集団嘔吐下痢症が発生した。この学校の生徒総数は266名で、1年生は2クラス、他は3クラスで構成されていたが、患者発生は1年生の1クラス(1-1)を主体に、時間の経過とともに他のクラスやその家族にまで及び、総数は69名となった。

学年・クラス別の患者発生状況を表に示した。1-1では6月6日の患者発生(表-a)に続いて、7日20時〜8日12時に26人が発症し、この患者の家族11名が8日〜15日にかけて発症した。初発患者(a)は6日早朝から嘔吐下痢症の症状を呈していたが登校し、給食当番にあたっていた。また、6日13時を起点とした7〜8日の発症者の平均潜伏時間は38.1時間であることから、これらの患者は6日昼食あるいはその前後での感染と考えられた。

1-1以外のクラスでも患者は認められたが、3年生の1クラス(3-1)を除くと発生は9日以降であった。3-1では7〜8日にかけて4名が発症しており、1-1と共通の感染源との(間接的な)接触が推測された。1、3年生の教室は校舎2階の同一フロアにあり、トイレなどは共用されていた。2年生の教室は3階で、5〜9日は課外活動のため授業はなかったが、サークル活動などで登校した生徒もいた。

患者および保存食の検査では、病原性細菌は検出されなかった。生徒31名、家族11名、調理従事者4名についてウイルス検索を行った結果、生徒16名(52%)、家族7名(64%)、調理従事者1名(25%)からSRSVが検出された。5〜7日の保存食からは検出されなかった。

ウイルスは35プライマーによる逆転写、35/36 による1st PCR、 SR33/SR48/SR50/SR52による2nd PCRで検出された。35/36あるいはNV81/NV82/SM82による1st PCRや35/36→NV、 MR4/5 →Yuri22F/Rプライマーによるnested PCRでは陰性であった。SR系プライマーによる増幅DNAの塩基配列は、検査したすべての株で一致し、genogroup 1に分類された。また、9名の便を電子顕微鏡で鏡検し、2名の検体からSRSV粒子を検出した。

以上の結果から、今回の事例は特定の患者から感染が拡大した集団嘔吐下痢症と考えられた。また、感染時期が夏季であったこと、二次感染により感染が拡大したこと、そして国内では少ないとされるgenogroup 1ウイルスによるなど、通常我々が経験するSRSVによる食中毒とは異なっており、集団での嘔吐下痢症発生時のウイルス検索の重要性が示された事例であった。

兵庫県立衛生研究所 近平雅嗣 増田邦義
兵庫県柏原保健所  堅田博行

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