ウエディングケーキが原因食品となったSalmonella Thompson食中毒事例−宮城県
(Vol.21 p 119-120)

1999(平成11)年6月29日、医療機関から保健所に対し、1家族7名が下痢などの食中毒症状を呈している旨の届け出があった。さらに、他の複数の医療機関からも同様な患者を診察したとの連絡があったことから、集団食中毒事件として調査を開始した。

聞き取り調査の結果、発症者の多くは6月27日に古川市内のA施設で行われた結婚披露宴の出席者とその家族であった。調査した96名のうち83名が喫食後2〜48時間以内(多くは12〜42時間)に軽度の発熱、水様性下痢、腹痛等の症状を呈していた(発症率87%)。

A施設では当日3組の披露宴が行われたが、患者は2組目の披露宴の参加者と、持ち帰ったケーキを喫食した家族に限定されていた。残ったケーキを食べたA施設の従業員も発症していることから、食中毒原因食品はウエディングケーキと推定された。ケーキはB店で2日前に製造し、当日納入された3段の生ケーキで、上から1、2段は新郎・新婦が自宅に持ち帰り、3段目は披露宴会場で出席者に提供されたものであった。以上のことから、食中毒原因菌を特定するために披露宴関係者、A施設従業員およびB店従業員の検便と、A施設・B店に残された食材・調理器具等の細菌検査を実施した。

その結果、披露宴関係者の発症者のうち44名、A施設従業員3名、B店従業員2名からSalmonella Thompsonが分離された。また、A施設に残っていたウエディングケーキと、B店内に店頭販売用として保存してあったチョコレートケーキおよびケーキ材料のバタークリームからも同様にS. Thompsonが検出され、汚染菌量は約104-5個/gであった。

患者、従業員、ケーキおよびバタークリーム由来の分離株についての生化学性状試験および薬剤感受性試験の結果は、すべて同じであった。また、制限酵素XbaIおよびBlnIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法による解析でもDNA切断パターンが一致した(参照)。以上の結果から、本食中毒事件の感染源となった原因食材は結婚披露宴に提供されたウエディングケーキで、原因菌はS. Thompsonと断定した。

ウエディングケーキがサルモネラで汚染された過程を明らかにするため、ウエディングケーキの原材料と製造・配送工程の衛生管理について調査を行った。汚染原因は、当初バタークリームのメレンゲを作製する際に使用される凍結卵白が原因と考えられたが、同一ロットの原材料が残されていなかったため調査はできなかった。さらに、同時期に購入された凍結卵白からはS. Thompsonが検出されず、原材料からの原因特定は不可能であった。一方、B店の従業員から聞き取りを行ったところ、バタークリームの仕上がり状態のチェックは従業員自身による味見が日常的に行われていた。また、作製したケーキは冷蔵装置の付いていない車で配送されていたことが明らかになった。

以上のことから、バタークリームの汚染原因は凍結卵白あるいは作業従事者の2つが考えられ、さらに製品の保冷不備が被害拡大要因として推察された。

B店では保健所の指導に従い従業員の衛生指導、消毒法等のマニュアルの作製、殺菌液卵等の使用、60℃3分加熱によるメレンゲ作製など衛生管理に努めている。

宮城県保健環境センター
斎藤紀行 佐々木美江 山口友美 畠山 敬 秋山和夫 白石広行
宮城県栗原保健所 鈴木 功 佐藤俊郎 中島 博

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