デング熱・デング出血熱の症状、診断、治療
(Vol.21 p 114-114)

デングウイルスには1〜4型の4つの型があり、1つの地域において複数の型のデングウイルスが同時期に存在していることが多い。1つの型のデングウイルスに感染した場合、同じ型のデングウイルスには感染しないが、他の型のデングウイルスには感染し、発症しうる。デングウイルスに感染した場合、不顕性感染がかなりのパーセントを占めると推察されている。単に発熱のみを症状として終わる場合もあるが、典型的な症状を示す場合、デング熱とデング出血熱と呼ばれる2つの異なる病態を示す。

デング熱はデングウイルス感染によって典型的な症状を示す患者の大多数を占める一過性の熱性疾患である。突然の発熱で発症し、頭痛、眼窩痛、筋肉痛、関節痛を伴う。食欲不振、腹痛、便秘を伴うこともある。胸部、体幹から始まる発疹が発症3〜4日後より出現し、四肢、顔面へ広がる。血液所見では軽度の血小板減少がみられる。上記症状は1週〜10日程度で消失し、その後、後遺症なく回復する。

デング熱とほぼ同様に発症し、経過した患者の一部において、発熱が終わり平熱にもどりかけた時期に血漿漏出と出血傾向を主な症状とする重篤な致死的病態を示すことがあり、デング出血熱と呼ばれる。胸水や腹水が高率にみられ、肝臓の腫脹が高頻度である。出血傾向があり点状出血・斑状出血、粘膜、消化管、注射部位や他の部位からの出血、血便がみられる。血小板は著しく減少する。血漿漏出が進行すると循環血液量の不足からショックに陥り、デングショック症候群とも呼ばれる。

病原診断はデング熱・デング出血熱の診断に重要である。血清診断として赤血球凝集阻止反応(HI test)や中和反応による特異抗体の測定がこれまで主に用いられてきたが、近年IgM-capture ELISA法による特異的IgM抗体の測定が広く行われている。Polymerase chain reaction (PCR)法によるウイルス遺伝子の検出も診断法として広く用いられている。日本人の場合、日本脳炎ワクチンの接種によりデングウイルス感染以前に日本脳炎ウイルスに対する免疫を有している例が多い。このような例はデングウイルス初感染ではあるが、フラビウイルス再感染としての抗体反応を示し、HI試験、中和試験、IgG-ELISA法いずれの方法でもデングウイルス抗体とともに、日本脳炎ウイルス抗体の上昇が見られる。しかし、デングウイルス特異的IgM抗体の検出やデングウイルス遺伝子の検出によって確定診断できる。

デングウイルス再感染の例でもデングウイルス特異的IgMを検出することにより診断できる。再感染例では特異的IgMが検出されない例があるが、急性期と回復期IgG抗体価の4倍以上の上昇により診断できる。抗体検査は血清あるいは血漿、PCR法はEDTA加の全血あるいは血漿を用いて行う。検体は4℃に保存し、できる限り早く検査を行う。

現在ワクチンはない。デング熱の患者に対しては対症療法が中心であるが、アスピリンの投与は、出血傾向の増悪やReye症候群発症の可能性があるので禁忌である。デング出血熱では血漿漏出による循環血液量の減少に対する補液が治療の主体である(1)。

 参考文献
1) World Health Organization : Dengue haemorrhagic fever : diagnosis, treatmant and control. World Health Organization, Geneva 1997

国立感染症研究所ウイルス第一部 倉根一郎

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