Shigella flexneri 2aによる保養施設宿泊者の集団感染事例

1999(平成11)年10月24日、下痢、腹痛、発熱等の主症状を呈するグループAの会員が相次ぎ横須賀市内医療機関を受診し、患者として確認されている旨の連絡があったため、集団・食中毒発生の疑いにより調査が開始された。

概要:グループAは10月21日、群馬県内の保養施設を利用する1泊2日のバス旅行を実施した。旅行後、一夜明けた23日(土曜日)午後〜翌日24日(日曜日)午前にかけて会員の大半が下痢(水様、粘血もしくはゼリー状の便性状)、腹痛、発熱、嘔吐、嘔気による激しい急性下痢症状を呈した。

10月24日;日曜日、市救急医療センターから6名の患者糞便材料が当所に搬入され、既知の腸管系病原菌を対象とした検査が実施された。10月25日;患者6名の糞便が塗抹されたSS寒天培地およびDHL 寒天培地上に赤痢菌を疑う特徴ある乳糖非分解のコロニーが観察された。10月26日;追試された確認培地の生化学的性状および血清型別試験(ためしスライド凝集法)により、本菌はShigella flexneri 2aと同定され、本集団事例が赤痢菌によるものと断定された。これを受け、市は赤痢防疫対策本部を設置し、二次感染防止および原因究明を目的とした調査を開始した。11月19日の本部解散までに当所で実施された赤痢菌検査は、有症者29(グループA 27、他グループ 2)名、無症者23名、患者家族70名、他24名の計146名(患者・有症者の再検査52名を除く)であった。このうち、有症者19名、および患者家族1名から赤痢菌が検出された。

方法:1)菌種同定:分離・同定は通常の方法により行った。2)薬剤感受性試験:NCCLSの実施基準に準拠した感受性測定用1濃度ディスク「BBL」を用い行った。使用薬剤はアンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、クロラムフェニコール(CP)、カナマイシン(KM)、ゲンタマイシン(GM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、ホスホマイシン(FOM)、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、スルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)、トリメトプリム(TM)の12薬剤を用いた。3)パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE):患者由来株9株について神奈川県衛生研究所に依頼し実施した。

結果および考察:今回の事件ではグループAが宿泊した10月21日を除き下痢、発熱、腹痛等の赤痢様症状を呈した施設利用者は確認されなかったことから、原因菌検索は21日の宿泊者に絞りこみ実施された。

本市における検出赤痢菌はグループAの18件、他グループの1件および二次感染者(接触者)1件の計20件であった。薬剤感受性については、すべての検出赤痢菌がABPC、CP、SM、TC、およびTMに耐性を示す多剤耐性菌であった。PFGEによるDNA多型性の解析では、供試された9患者由来菌株の制限酵素(Xba I、Bln I)切断パターンは完全に一致した(図1)。

以上、本事例はPFGEを用いた分子疫学的解析により、同一のS. flexneri 2aによる保養施設宿泊者の集団感染であることが示唆された。また、原因食品、感染経路については明らかにされなかったが、現在、群馬県衛生環境研究所は本市と他県で検出された赤痢菌についてPFGE等によるDNA多型性の解析を実施中であり、今後はその結果を含めた情報解析を行うことも必要と考えられた。なお、PFGEは神奈川県衛生研究所細菌病理部へ依頼し、実施された結果であり、ご支援に感謝致します。

横須賀市衛生試験所
蛭田徳昭 山口純子 片倉孝子 増山 亨 三留昭一
横須賀市保健所

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