東京都内で発生したグリーンオリーブの塩漬けによるB型ボツリヌス食中毒事例(2)−検査結果

わが国のボツリヌス食中毒は年間数例の発生が認められ、その毒素型は90%以上がE型である。1998年8月に東京都内で発生が確認された事例は、イタリア産のグリーンオリーブ塩漬け(ビン詰め)が原因食品であり、わが国で3例目のB型ボツリヌス毒素による事例であった。

1.症例および疫学的調査成績:初発患者は1998年7月24日千代田区内の飲食店でグリーンオリーブの塩漬け、キムチ漬け等を喫食し、7月26日嚥下困難、食事摂取が不可能になった。7月28日複視、眼瞼下垂、構音障害出現、対光反射陰性、両眼散瞳等も認められ、7月31日入院した。当初ギラン・バレー症候群あるいはボツリヌス食中毒の疑いがもたれ、検査が行われた。その後の調査の結果、上記患者と同時に喫食した3名に軽度ではあるが上記患者と同様な症状が発現していることが明らかとなったことから、ボツリヌス食中毒の疑いとして8月14日に当研究所に検体が搬入された。

疫学調査の結果、患者数は7月24日〜8月6日までの当該飲食店利用者および当該店の従業員合計18名の患者が確認された。患者の症状は1名が呼吸困難を伴った重症であったが、他の17名は複視、嚥下困難、眼瞼下垂、口渇等、中程度〜軽症で経過した。患者の共通食はビン詰めのグリーンオリーブの塩漬けのみであり、オリーブ1粒を食べて発症した患者もいた。当該ビン詰めは7月24日に開封されたものであった。

2.細菌学的検査成績:初発患者が店から自宅に持ち帰っていたオリーブの実、当該店に残っていたビン詰めのオリーブの実と漬け汁に加え、仕入先の小売店等にあったオリーブ11件、その他の食品4件、厨房のふきとり材料や排水など9件、患者血清8名11件(1患者は時期をかえて4回検査)および糞便11件について細菌および毒素検査を実施した。その結果、患者血清からボツリヌス毒素は検出されなかったが、患者宅のオリーブ、当該店に残っていたビン詰めのオリーブの実およびその漬け汁からB型ボツリヌス毒素およびタンパク分解性のB型ボツリヌス菌が検出され、患者糞便13検体中2検体からもB型ボツリヌス菌が検出されたことから、本事件はボツリヌス食中毒であることが判明した。なお、当該店に残っていた他の食品および環境材料からボツリヌス菌は検出されなかった。また、本中毒の原因となったオリーブのpHは5.4、水分活性は0.99であり、ボツリヌス菌の発育と毒素産生に十分な値であった。

3種類の制限酵素(Sma I、Nru I、Mlu I)を用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法による分子疫学解析の結果、患者由来株とオリーブ由来株は同一であること、対象として当研究科に保存されていたB型ボツリヌス菌とは異なることが確認された。

3.当該グリーンオリーブの塩漬けの製造過程:輸入業者を通じて得た当該品の製造過程は、1)原料オリーブの選別(収穫から24時間以内)、2)苦み除去(約90日間ソーダおよび塩溶液浸漬)、3)洗浄、4)pH調整(pH5.0に安定化)、5)加熱(80℃)、6)空ビンの洗浄、殺菌、7)ビン詰め、8)調整液(塩、乳酸、クエン酸)添加、9)フタ締め、10)滅菌(105℃、170分間)、11)ラベル貼布、12)梱包であった。保管、発送時の条件は指定されておらず、通常、常温で行われていた。原因食品が輸入食品であったことから、製造のどの過程で製品がB型ボツリヌス菌により汚染されたか、また、どのような条件においてB型ボツリヌス毒素が産生されたかなど詳しい調査ができなかった。

4.輸入オリ−ブのボツリヌス汚染実態調査:輸入オリーブの塩漬けの安全性を確認する目的で、同一ロット4件、同一ブランド品14件を含む91検体の市販オリーブ(イタリア産43件、スペイン産31件、フランス産7件、アメリカ産5件、ギリシャ産2件、国内産2件およびブラジル産1件)について細菌検査を実施したが、これらの検体からボツリヌス菌は検出されなかった。

本事例から、野菜や果物等のビン詰めで十分加熱のできないものでは、ボツリヌス菌が生残し、菌が増殖すると毒素による汚染を受ける危険性があることが再認識された。

東京都立衛生研究所微生物部 門間千枝 柳川義勢 諸角 聖
東京女子医大神経内科 松村美由起 岩田 誠
東京女子医大感染対策科 菊池 賢 志関雅幸 戸塚恭一

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