ワイル病による死亡事例−宮城県

ワイル病の疑いで死亡した症例について血清学的にワイル病と確定したので報告する。

患者は宮城県北部に在住する45歳の男性(農業)で、1999年9月27日より発熱・頭痛・食欲不振などにより近医に通院していたが症状は改善せず、10月1日に町内の国保病院を受診した。受診時は全身に黄疸を伴う肝障害や尿が全く出ない腎障害を呈しており、10月2日に古川市立病院へ転院・入院となった。

入院時の症状は血圧が60〜70mmHg台とプレショック状態で呼吸機能も悪化していた。主な臨床検査結果は尿蛋白強陽性・総ビリルビン量や肝機能値の増加などワイル病特有の検査値であった。さらに、白血球数の増加・赤血球数や血色素数の減少を示し、特に血小板数が 1.7万/μlと低く肺出血像などの出血傾向が著明であった。レスピレーター管理や輸血などの各種治療を行ったが、症状の進行は早くかつ激烈で10月4日に多臓器不全で死亡した。

当センターでは10月2日に採取した凍結保存血清(1回目血清)および4日に採取した血液(2回目血清)・髄液について暗視野顕微鏡による菌体の観察・顕微鏡学的凝集反応による血清抗体価の測定とPCR法によるレプトスピラ遺伝子の検索を行った。

その結果、10月4日の血液中にレプトスピラ様菌体を確認した。また、同日の血液と髄液中にレプトスピラ遺伝子を検出した。また血清抗体価はLeptospira copenhageni芝浦株に対して1回目血清で1:10、2回目血清で1:40と4倍の抗体上昇が確認され、血清学的にワイル病であることが判明した。

宮城県において、ワイル病患者は1960年代まで多発していたが、近年は予防接種や農業の機械化によって激減しており、最近では1987年に1名の患者が確認されたのみで、死亡例は1983年以来のことである。しかし、県内の野ネズミのレプトスピラ保有状況は患者が多発した時代も1990年代も大きな差は認められず、自然界におけるレプトスピラの汚染は現在も過去と同様の状況と推測されていた。また、1994年の予防接種法改正後、レプトスピラ病の予防接種は実施していないため、過去に患者が多発した地域住民においてワイル病に対する感受性者が増大しているものと推察され、ワイル病の発生が危惧されていたところであった。

本事例の推定感染地は過去にワイル病患者が多発した地域でもあり、今後感染症新法の対象外であるワイル病について医療現場への情報提供を行うなど、十分な注意を喚起する必要があろう。

宮城県保健環境センター
秋山和夫 野池道子 後藤郁男 沖村容子 白石廣行
古川市立病院 涌澤圭介 角道紀子 矢野光士

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