ボルンホルム病の流行−愛知県

1999年3〜10月に、小牧市内の小児科医院を受診した患者 223名についてウイルス分離検査を実施したところ、流行性筋痛症(以下ボルンホルム病)と診断された25名中12名からコクサッキーB2型ウイルス(以下CB2)が分離された。同時期の他の患者からは気道炎と診断された患者1名から同ウイルスが分離されたのみであった(表1)。

ボルンホルム病と診断された患者からのウイルス分離成績を表2に示した。CB2は7月の9名からと、9月の3名から分離された。CB2以外ではCB4が9月に1名から、CB5が6月に1名から分離された。患者の年齢階層は3歳〜8歳が最も多く、CB2もこの年齢層からよく分離された。一方、29歳と44歳の成人の患者もあり、29歳の女性からCB2が分離された(表3)。

県下の他の地区(市民病院)におけるCB2の分離状況は小牧市から西へ11km離れた一宮市で5名、南東へ44km離れた岡崎市で2名、岡崎市からさらに南西に15km離れた西尾市で2名、南東へ28km離れた豊橋市で1名であった。小牧市以外で分離された患者の診断名は無菌性髄膜炎(7名)、脳炎(2名)および上気道炎(1名)であった(表4)。

患者の診断名に「流行性筋痛症」あるいは「ボルンホルム病」の記述があったのは小牧市のみであった。

今回のCB2によるボルンホルム病の主な症状は、発熱、胸痛、咽頭発赤などであった。胸痛の部位は主に前胸部であったが、背部や上腹部に及ぶものも見られた。胸痛の程度は極めて強く、胸痛時に泣き叫ぶものや、痛みのために呼吸抑制をきたしたもの、胸痛を訴えるだけで比較的平気なものなどさまざまであった。口腔内所見では咽頭発赤が全例に、ヘルパンギーナ様口内疹が2例に観察された。

ボルンホルム病はバルト海のデンマーク領ボルンホルム島での流行から「Bornholm病」と名付けられた。本症はエンテロウイルスを代表する病態の1つであり、主にコクサッキーB群ウイルスに特異的な疾患である。欧米での報告例に比し、本邦での報告は少なく、特にウイルス分離例はわずかに横田、古前、中尾、西野、原、志水、武内らの報告例を見るにすぎない。著者らの経験では1992年から現在までにウイルスが分離され、ボルンホルム病と確定できた症例は12例であった(表5)。そのうち、昨年にはCB3が5例から分離されており、さらに今年はCB2が12例から分離され、決して少ない病気ではないものと思われる。

本邦においてはボルンホルム病に対する関心は薄く、あまり注目されてこなかったが、夏かぜ流行中には常に本症を念頭に置き観察することにより、本症の正確な発生状況がつかめるものと思われる。

志水こどもクリニック 志水哲也
愛知県衛生研究所 山下照夫 杉山 雅 都築秀明 榮 賢司 鈴木康元

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