インフルエンザAH1型ウイルス感染による急性脳症患者−大阪府

急性脳症と診断された患児よりインフルエンザAH1型ウイルスが分離同定されたので報告する。1999年12月26日に咽頭ぬぐい液および髄液が採取され、28日当研究所に送付された。同日MDCK細胞に接種、2000年1月4日咽頭ぬぐい液は初代培養系で、ヒトO型血球0.7%によるHA反応で256HAUのウイルス増殖がみられ、感染研より分与された1999/2000標準フェレット感染抗血清により同定、A/北京/262/95(H1N1)ホモ価1:1,280と同等のHI価を示し、インフルエンザAH1型と同定した。なお、髄液からは分離陰性、PCRによる検出はまだ行っていない(前田)。この患者の1月12日現在の経過は以下のようである。

 患者:4歳男
 診断名:急性脳症
 現病歴:1999年12月22日朝より発熱39℃認め、下痢、嘔吐も伴い、解熱座薬使用、9:00近医受診し、15:00 40℃にて再度座薬使用、夜になって寒けを訴え、41℃発熱、1回嘔吐し、ジュースを飲んで寝たが、うわごとを言い、反り返り、嘔吐を2回繰り返し、尿失禁も認め、21:50に高槻病院小児科に救急入院。

 入院経過:入院時は意識レベルIII-100〜II-30にて頭部CTで脳室の辺縁不明、狭小化を認めた。入院後、水様便、嘔吐頻回で、検査上はWBC 12,200、 CRP 0.7、 GOT 89、 GPT 56、 LDH 686、 NH3 52と軽度の逸脱酵素の上昇を認めた。急性脳症を疑い維持輸液、グリセオール投与で加療開始、その後12月23日朝にかけて熱も上下し、下痢が続き、さらに意識レベル低下しIII-100〜200となりバビンスキー反射、尖足位認めたため、髄液採取したが、圧は高くなく、細胞数1/3、蛋白360mg/dlと蛋白の増加のみ認めた。

12月23日 GOT 1,048、 GPT 925、 LDH 1,963、 NH3 133と逸脱酵素上昇し、ライ様症候群あるいはインフルエンザ脳症を疑い、免疫グロブリン製剤点滴静注したが、同日夕刻、自発呼吸弱くなりチアノーゼを認め、16:00頃人工換気療法を開始した。アマンタジン製剤経管注入開始、グリセオールをマンニトールに変更し、胃出血も認めたためガスターも開始した。Pre-DICの微候もあり加療、意識レベルIII-300まで進行し、12月24日瞳孔散大し、対光反射なく、脳波、聴性脳幹反応(ABR)実施したが、脳波は平坦でABRも無反応、12月25日の頭部CTでは、中脳、脳幹部の低吸収域が認められ、脳幹脳炎が疑われた。末梢循環も不良となりドーパミン、ドブタミンも併用、逸脱酵素は回復してきたが(12月25日 GOT 348、 GPT 446、 LDH 1,295、 28日 GOT 167、 GPT 190、 LDH 1,604、 Na 158、 K 3.8、 Cl 128)、諸種治療に抗し症状の改善は得られていない。

2000年1月12日現在は自発呼吸なく人工換気継続、腸管動かず経管栄養実施できず、尿崩症状態となりデスモプレッシン点鼻併用中、脳波は3回(12月24、28日、1月5日)実施したが、平坦で、聴性脳幹反応(12月24、28日)も無反応で脳死に近い状態である(安藤)。

なお、大阪府下では、1999年12月中はインフルエンザAH1、 AH3型ともに分離同定されたが、AH1型が優位であり、同様AH1型感染に起因する脳症が数例認められている。また、AH3型分離数の増加にともないこれに起因する脳症も数例確認している(前田)。

高槻病院小児科 西野昌光 安藤康一
大阪府立公衆衛生研究所 前田章子 加瀬哲男 森川佐依子 奥野良信

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