母体の再感染による先天性風疹症候群
  −自験例と日本における23症例の検討−

いったん風疹に対する免疫を獲得していたにもかかわらず、その後の母体の不顕性感染により発症した先天性風疹症候群(CRS)を経験した。母親は34歳で、14歳時に風疹ワクチンの接種を受けていた。患児を出産するまでに2回の分娩を経験しているが、いずれも正常児を出産している。各妊娠時において、26歳で2回、30歳で1回測定された風疹HI抗体価はいずれも1:16であった。今回の妊娠の2週に4歳の第2子が風疹に罹患したが、母体は無症状であった。妊娠9週の母体の風疹抗体価は1:512と高値であった。在胎38週2日、2,546gで出生した男児は難聴、白内障、動脈管開存症、肝脾腫、脳内石灰化などの症状と、風疹HI抗体1:256、IgM EIA(デンカ生研)陽性の所見から、CRSと診断された。この例はワクチン接種後の感染でCRSとなった報告例のうちで、感染前の抗体上昇が正確に確認されている本邦初の例である。

再感染により発症したCRSは日本において本例を含めて17例(表1)、またその疑いがあるのが6例、計23例知られている。確実な17例は、再感染前の測定でHI抗体が存在していたもの、および感染後の風疹IgG抗体avidity(本号5ページ参照)が高く再感染と認定されたものである。報告者名があるのが学会や雑誌報告のあるもの、また、機関名があるのは未報告のものである。疑わしい6症例は、ワクチン接種後の抗体陽転が確認されていないので、primary vaccine failureの可能性も残っている。

このうち、母体に発疹が出現した例は27%であり、母体のIgM抗体が陽性となったのは、測定された例のうち54%、また、疑陽性が7.7%であった。このように、再感染CRSの場合は、初感染CRSと比べて発疹やIgM抗体の出現といった母体の感染の明らかな指標が必ずしも有るわけではないので、臨床診断上、非常な困難が伴う。現在、胎児が感染していることを知り得る有力な手段として、胎盤絨毛、羊水や臍帯血から風疹ウイルスゲノムを検出する方法が確立されているので(本号4ページ参照)、妊娠初期に再感染またはその可能性を認めたならば、この検査を行うことが現段階における唯一の確実な診断確定法と思われる。

CRSの重症度については、初感染・再感染の間で差が無かった。これは、たとえ母体にとっては再感染であっても、胎児にとっては常に初感染であることによる。前抗体は最高値で1:64であり、再感染直前の正確な値は不明であったが、従来考えられていたよりも完全な感染防御には高いHI抗体価が必要であると思われた。

感染源の明らかな13例については、わが子からの感染例が39%、患者と日常的に接する職業上の感染例が23%あり、この2群がハイリスク群と考えられた。わが子からの感染防止の観点からも、子供の早期のワクチン接種が重要であると思われた。

今後、ワクチンの普及とともに、一次免疫を自然感染ではなくワクチン接種によって獲得する女性の比率が増加して、このようなワクチン接種者のCRSの比率が増加することが懸念される。それは、一般的にワクチン接種によって得られた抗体価は、自然感染によって得られた抗体価より低く、従って、低値に減衰するのも、自然感染よりも早いと考えられるからである。現行の予防接種法で2003年までの暫定措置である中学生の接種を2003年以後も継続し、また、幼児期の未接種のみを対象とするのではなく、ブースター効果により高い抗体価を維持させるためにも、既接種者、未接種者を問わず、全員に2度目の接種を拡大徹底する必要がある。

再感染CRS予防の根本的な解決法としてはワクチン接種率を向上させて、風疹そのものを根絶する以外にはないと思われる。

国立療養所香川小児病院小児科 牛田美幸 岡田隆滋
国立感染症研究所ウイルス製剤部 加藤茂孝

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る